研究課題/領域番号 |
17K15308
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
伊藤 元裕 東洋大学, 生命科学部, 講師 (80612332)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サケ / 海鳥 / サンプラー / 回遊経路 / 耳石 / ウトウ |
研究実績の概要 |
サケOncorhynchus ketaは重要な漁業資源であるが、近年、資源量の減少と母川への回帰率の低下が報告される。サケは、降海後数か月の間に、全個体数の約9割が減耗するとされる。しかし、降海後に外洋を回遊する10-15cm程度のサケ幼魚の捕獲は困難であり、サケの生活史における大きなブラックボックスとなっている。減耗の激しいこの幼魚期における詳細な生態情報を得ることはサケの資源量の減少メカニズムを明らかにする上で急務である。 本研究では魚食性海鳥をサケ幼魚のサンプラーとして用いることで、これまでサンプリングが困難であったサケ幼魚を採集した。本年は、青森の大間弁天島、北海道の太平洋側に位置する大黒島、日本海側に位置する天売島、礼文とど島でウトウの餌調査を行いサケ幼魚を採取した。これらのサケ幼魚に昨年採取したものも加え、由来河川をしらべた。更に、サケの筋肉片のDNAについても昨年同様検討を行い耳石から、温度標識が観察できなかった個体についてもその系群を明らかにし、少なくとも、北海道由来の個体群であるか、三陸由来の個体群であるかを判定した。加えて、ウトウにGPSを装着してその採餌範囲を調べることで、どのような場所でウトウが採餌を行っているか複数個所で明らかにした。昨年度の結果と同様、温度標識、DNAの結果ともに、日本海側でとれるサケは北海道日本海側河川由来であり、太平洋側でとれるサケは全て北海道の河川由来のものであることが明らかになった。本研究の結果は、これまで、北海道および三陸の太平洋側の個体群は全て、北海道のごく沿岸を回遊すると考えられてきたが、三陸個体群については、別の回遊ルートがあることを想定する必要があることをさらに強く示唆した。しかし、青森や日本海側において想定よりもサケが集まらず分析数は増えなかった。そのため、GPSデータとサケの分布域の解析が不十分となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を通して複数の箇所でウトウの餌調査を行うことができ、更に、複数個所で繁殖するウトウにGPS装着し、その採餌場所を明らかにすることが出来た。これらのデータを使って、これまでデータがほとんど得られていない、降海直後サケ幼魚の由来河川、その成長量、それらの回遊経路が明らかとなった。特に、太平洋側でとれるサケは全て北海道の河川由来のものであり、これまで、北海道および三陸の太平洋側のサケの個体群は全て、北海道のごく沿岸を回遊すると考えられてきたが、三陸個体群については、別の回遊ルートがあることを想定する必要があることをさらに強く示唆することが出来た。 昨年度GPSの不調によりデータ数が少なくなった反省を生かし、GPSのバグの解決、装着方法やアンテナ設置方法の検討を入念に行った結果、複数の繁殖地で多数のデータが得られた。この結果により、どの繁殖地においても、ウトウは100m以浅のごく沿岸の特に水温が比較的低い場所に多く回遊していることが示唆され、こうした場所にサケも多く分布していることが示唆された。しかしながら、本年はサケの捕獲数が少なく、分析数が限られてしまった。 また、本務の急な多忙化と年度末のコロナウイルス感染症対応のため、分析が一部残っており、結果発表予定であった、講演が複数中止されたため、十分なまとめと発表が行えなかった。関連論文は1報出版された。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を1年延長し、次年度に十分な解析および取り纏めと並行し、同様のウトウの餌調査を北海道、および青森の複数の繁殖地において行い、年間の比較分析に十分なサケサンプル数を得ることを目指す。また、複数個所でウトウのGPS調査を行う予定である。次年度のGPSは位置情報に加え、加速度、深度計がついており、より詳細な情報を得ることが出来ることが期待される。こうしてサケの分布海域や分布深度を明らかにすることを目指す。本研究の結果は複数の学会で発表するとともに、これまで通り各県への情報提供や講演を実施する。更に最終年度である次年度は、これまで、サンプル数が十分でなかった部分を補いながら、各島・各年で比較を行うことで、過去4年間のデータをまとめ論文投稿を進めていく。 しかしながら、コロナウイルス関係による各種自粛により研究の更なる遅延も懸念されるため、十分に計画を検討しながら計画を遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学務の予想以上の多忙化により、研究のまとめに十分な時間確保が難しく、参加予定であった国際学会が本務校の卒業論文発表会と重なり発表できなかった。 また、今年度行った調査で、予想以上にサケの捕獲量が少なく、事業の目的をより精緻に達成するために更にもう一年データを取得する必要が出た。更に、年度末のコロナウイルス対応で予定していた分析や講演が中止になった。来年度も調査を行い4年間のデータを統合することで、価値の高い研究まとめが可能になるため、研究課題の延長申請した。 解析用の高性能PCの購入と調査のためのGPS購入および調査旅費として使用予定である。
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