最終年度(2019年)も網走および標津地区で沿岸環境の観測と二艘曳きによるサケ稚魚の採集を行って、同位体比の分析を行った。混合モデルにより3年分のデータを解析し、網走および標津地区で採集したサケ稚魚の餌生物の寄与率を推定したところ、網走沿岸ではサケの好適な餌生物と考えられている冷水性カイアシ類の寄与率が50%を超えたのに対し、標津沿岸では冷水性カイアシ類の寄与率は10%に満たず、沿岸性のプランクトンを主として利用していたと考えられた。このことが、網走沿岸における高い成長速度に繋がっている可能性がある。 網走および標津地区に回帰したサケ親魚の鱗を採取した後で、顕微鏡下で年齢の確認と各年齢帯の幅の計測を行い、各年齢帯の相対的な成長率を推定した。その中から満4歳のサケ親魚の鱗の最外年齢帯(つまり4歳の時)をメスで切断し、安定同位体比分析用の試料とした。回帰したサケ親魚の鱗を分析した結果、網走・標津の両地区ともに、2018年の9月前期に回帰した個体の4年目(北海道へ回帰する年)の成長率が顕著に低かった。鱗の最外年齢帯における炭素安定同位体比および窒素安定同位体比も同様に、網走・標津地区ともに2018年9月に回帰した個体で特徴的に低かった。この結果は、サケ親魚が例年とは異なる餌を利用していた、あるいは異なる経路を回遊した可能性を示しており、2018年の来遊時期前半に全道的に見られた小型化(魚体重の減少)との関連性が示唆された。2018年はロシアのカラフトマスが大豊漁の年であったため、そのことと関係がある可能性がある。
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