魚類のウイルス病対策ではワクチネーションがその主体となっているが、ワクチン単価が高いことからワクチン接種が普及せずに被害が拡大している状況が散見される。マダイイリドウイルス病のワクチンは、病原体をホルマリンで不活化したものであり、抗原量が多いほどワクチン効果が高い傾向がみられるが、魚類培養細胞でのウイルス産生効率が低いため製造コストの上昇につながっている。本研究では、培養細胞でのウイルス増殖過程を詳細に解析することで、効率の良いワクチン製造につなげることを目的としている。本研究の成果により、マダイイリドウイルスの培養細胞におけるウイルス産生効率の低さは、感染細胞においてウイルスの複製が途中で阻害されているためだと示唆された。感染細胞の網羅的なトランスクリプトーム解析により、細胞のアポトーシス関連、インターフェロン関連、RNA干渉関連の遺伝子がウイルスの複製阻害に関与しているのではないかと推定された。トランスクリプトーム解析で推定された阻害因子の影響を明らかにするために、12遺伝子を対象としてsiRNAを用いたノックダウン試験を実施した。蛍光標識RNAを用いてsiRNA導入に最適なRNA濃度および導入試薬の濃度を決定し、siRNA導入24時間後にマダイイリドウイルスを接種してウイルス産生状況を観察した。しかしながら、siRNAを導入していない感染細胞の影響が強く出たためにノックダウンの効果を判定できなかった。細胞密度やウイルス接種濃度等、実験条件を変えて実施しても明瞭な結果を得ることはできなかった。ただし本研究により、ウイルス複製阻害の候補となる遺伝子が推定されたことから、今後、ゲノム編集による候補遺伝子のノックアウトと薬剤マーカーのノックインを同時に行って、ノックアウト細胞を株化するという手法でウイルス産生効率の高い細胞の作出を試みる計画である。
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