研究課題/領域番号 |
17K15316
|
研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
樋口 健太郎 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (40577607)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 大型多回性産卵魚 / 栄養状態 / 成熟 / 産卵 / 養殖 / ブリ |
研究実績の概要 |
本研究では、大型多回性産卵魚について、一年のうちどういった時期の、どのくらいの栄養状態が良質卵を生産するうえで重要であるかをブリを用いた飼育実験により明らかにする。本年度は、まずどういった“時期”の栄養状態が成熟・産卵に重要であるかを調べるため、成熟開始前あるいは成熟期等の異なる成熟段階の時期にそれぞれ餌を一定量削減する飼育実験を行った。給餌量の削減が成熟に及ぼす影響を明らかにするため、産卵期である4月の卵巣重量ならびに卵巣卵径を調べたところ、卵形成が進行する成熟期に給餌量を削減した試験区のみで低くなった。また、成熟期に給餌量を削減した試験区のみで4月の血中エストラジオール-17β(E2)濃度が低かった。さらに、脳下垂体ならびに卵巣における成熟誘導遺伝子の解析から、成熟期の摂餌量の低下は脳下垂体の生殖腺刺激ホルモン遺伝子の発現量には影響せず、直接卵巣のステロイド代謝酵素遺伝子の発現変化を誘導することでステロイド合成を抑制し、血中E2濃度の低下を引き起こしていることが明らかになった。以上の結果から、ブリの成熟の進行には成熟期の摂餌量が極めて重要であることが明らかになった。 他方、親魚の栄養状態と成熟の関係を調べるためには、肝臓、筋肉、卵巣等の各組織ならびに血中における脂質含量を指標にして摂餌量の低下に伴う栄養状態の変化を明らかにする必要がある。これに先立ち、各組織における脂質含量の周年変化を調べたところ、筋肉ならびに卵巣では全く変化が認められなかったが、肝臓ならびに血中では成熟に伴って脂質含量が増加し、これらの脂質含量は成熟の進行と関連していることが示唆された。このことから、肝臓ならびに血中の脂質含量は親魚の栄養状態の指標になり得ると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブリを用いた飼育実験から、本種の成熟は卵形成が進行する成熟期の摂餌量に依存して進行することが明らかになった。また、各組織の脂質含量の分析から、親魚の栄養状態の評価には肝臓ならびに血中の脂質含量が指標になり得ることを見出した。このように、当該年度においては当初の計画通り研究は順調に進捗した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、様々な時期に給餌量を削減した飼育実験で得られたサンプルを用いて肝臓ならびに血中の脂質含量を分析することで、摂餌量の低下に伴う栄養状態の変化を明らかにする。また、これら栄養状態の変化が産卵に及ぼす影響を調べるため、産卵期にホルモン投与による産卵誘導を行い、得られた受精卵数やふ化率等を調査する。 次に、次年度はどのくらいの栄養状態が成熟・産卵に重要かを調べるため、上述の飼育試験の結果から栄養状態と繁殖特性の変化に関連が認められた時期に着目して、給餌量を削減し、栄養状態を段階的に変化させる飼育試験を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は、実験魚を飼育するための餌料に費用がかさむことを想定していたが、他のプロジェクト研究で使用する餌料とまとめて購入する等により飼育コストを削減できた。このため、本年度においては次年度使用額が生じることとなった。 次年度は、新たな飼育実験を行うとともに、得られたサンプルを用いて成熟誘導遺伝子の発現解析や脂質分析を行うため、これらの分析に使用する試薬等に使用する予定である。
|