研究課題/領域番号 |
17K15319
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木谷 洋一郎 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (70565340)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | L-アミノ酸オキシダーゼ / 魚類自然免疫 / 生体防御物質 / 酵素活性制御 |
研究実績の概要 |
魚類も他の生物と同様に病原菌の感染を防ぐために様々な仕組みを持つ。近年L-アミノ酸オキシダーゼ(LAO)もその仕組みに関わる分子として見いだされ、これは過酸化水素を介した生体防御分子として機能していると考えられている。しかしながら、LAOの産生する過酸化水素は自身に対しても高い毒性を示すと予想されることから、この毒性をどのように制御しているか解明することを本研究の目的としている。 種々の魚類を採取しその血清を試料としてLAO活性を測定したところ、ホシササノハベラ(Pseudolabrus sieboldi)とキジハタ(Epinephelus akaara)の血清から強いLAO活性を検出した。中でもキジハタは漁業者から容易に、かつ安定的に調達できることから本研究ではキジハタを試料魚として選定した。キジハタ血清のLAO活性もNaCl濃度依存的に活性が増強する様子が確認された他、二価陽イオン、中性界面活性剤などの添加でもLAO活性が増加することを明らかとした。 キジハタ血清LAOの精製は陰イオン交換、ハイドロキシアパタイトそしてゲルろ過で構成される三段階のクロマトグラフィーで行った。紫外線(280nm)の吸光度とLAO活性を指標に精製された成分をSDS-PAGEに供した結果、目的の成分は単一のバンドとして検出された。ゲルろ過HPLCおよびSDS-PAGEの結果からキジハタ血清LAOは約450kDaで約70kDaサブユニットの6量体であることが示唆された。 また、未精製キジハタ血清LAOの分子量と高濃度塩溶液により活性化したキジハタ血清LAOの分子量をゲルろ過クロマトグラフィーで比較したところ、LAO活性ピークの溶出時間に差は見られず、つまり分子量は変化しなかった。この結果からキジハタ血清LAOの活性制御にはタンパク質などの巨大分子ではなく低分子量の物質が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)初年度に予定していた魚類血清LAOの活性化条件検討についてはほぼ予定通り完了した。 2)また二年目に予定している抗体作製に必要な抗原LAO分子についても精製法を確立することができた。キジハタ血清に含まれているLAO量が微量であるため必要量の確保にむけ引き続き精製に取り組む。 3)平成30年度に予定していた活性制御因子の分子量推定は初年度中に検討することができた。活性制御因子の分子量はゲルろ過クロマトグラフィーの溶出時間に影響しない程度のものであると推定された。 4)キジハタ血清LAOの部分構造について明らかとした。これは既知の魚類LAOと高い相同性を示した。現在全一次構造の解析に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は初年度の結果を踏まえ、キジハタ血清LAO活性制御因子の特定と活性化機序の解明に取り組む。LAOと共存する分子を特定するためにキジハタ血清LAOに対する抗体を作製し、抗体固相化ビーズを用いた免疫沈降法を行う。キジハタ血清LAOは生理的条件においてLAO活性が抑制されていることから、この条件でキジハタ血清LAO特異抗体ビーズとキジハタ血清LAO-活性制御因子複合体を結合させ、その後LAOを活性化させれば目的の活性制御因子を得ることができると考えられる。精製されたキジハタ血清LAO分子全体を抗原としてポリクローナル抗体を作製することで、抗体の結合エピトープを限定しないようにする。これはLAOと複合体を形成する分子がLAOのどの部分に結合しているか不明なため、モノクローナル抗体などエピトープが限定された抗体では複合体形成分子がエピトープ付近に存在した場合に抗原抗体反応が妨害されることが考えられるためである。 また活性制御因子は低分子量物質であることが予想されるため、各種クロマトグラフィーおよびLC/MSによる分子の単離・同定を行う。活性制御因子を単離することができたならば、活性化したLAOにこれを添加し酵素反応速度論的な解釈を加える予定である。
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