研究課題/領域番号 |
17K15320
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小山 寛喜 広島大学, 生物圏科学研究科, 助教 (20746515)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | D-アスパラギン酸 / アスパラギン酸ラセマーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、アスパラギン酸(Asp)のラセミ化を触媒する酵素であるアスパラギン酸ラセマーゼ(AspRase)遺伝子のクローニングを目的とした。試料として用いたのは、多量のD-Aspの存在が確認されているスルメイカTodarodes pacificusの視神経節である。はじめに、HPLCを用いてスルメイカ視神経節におけるAsp含量の測定を行ったところ、D-Aspの存在が確認されるとともに、D体とL体の比がほぼ1 : 1であることが明らかとなった。同じ頭足類であるマダコOctopus vulgarisの視神経節では、D体の含量の方が多いため、種によってその比率が異なる可能性が示唆された。 次に、スルメイカ視神経節におけるAspRase活性の測定を行った。L-Aspを基質とし、視神経節から得られた粗酵素液を加え37℃で24時間インキュベートしたところ、少量のD-Aspの生成が確認された。粗酵素液におけるAspRase活性は非常に低いものであったが、HPLCで確認可能であることが示された。 さらに、AspRase遺伝子クローニングのための準備も進めている。スルメイカ視神経節からAspRase様遺伝子は得られているが、大腸菌をはじめ様々な発現系を用いて、リコンビナントタンパク質を発現させたが、すべてにおいて活性は検出されなかったため、新たなAspRase遺伝子候補の探索が必要となっている。したがって、視神経節由来のcDNAライブラリーを作製した後、遺伝子を動物細胞に発現させ、その活性を追うことで最終的に単一クローンにするという発現クローニングの手法を用いる。現在、cDNAライブラリーを作製中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、すぐにスルメイカ視神経節からcDNAライブラリーの作製を行う予定であったが、スルメイカ視神経節におけるアスパラギン酸のD, L比やアスパラギン酸ラセマーゼ活性についての情報が乏しかったため、はじめにそれらの測定を行った。それらの測定が完了してからcDNAライブラリーの作製に取り掛かったため、予定より遅れてしまうこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
目下、スルメイカ視神経節由来のcDNAライブラリーを作製中である。作製が完了次第、発現クローニングが実施できる状態にある。したがって、今後は発現クローニングによりアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子の単離を試みる。遺伝子を単離した後は、塩基配列の解析を行い、他生物種の各種アミノ酸ラセマーゼとの分子系統関係を明らかにする。本研究によって明らかとなった塩基配列情報をもとに他の頭足類や哺乳類のAspRase遺伝子同定の足掛かりとする。 次に、大腸菌によるリコンビナントAspRaseの発現および活性測定を行い、最適温度や最適pHなどの酵素学的特徴を明らかにする。また、活性中心と予想されるアミノ酸を別のアミノ酸に置換した変異体を作製し、AspRase活性にどのような変化が現れるのかを調べ、活性に重要なアミノ酸残基を特定する。 さらに、スルメイカの神経系におけるアスパラギン酸ラセマーゼの分布についても検討する。まず、大腸菌発現系で得られたAspRaseをもとに抗体を作製する。次に、視神経節や脳神経節の切片を作製し、AspRase抗体による抗体染色を行う。D-Asp抗体による染色も同時に行い、神経系におけるD-AspとAspRaseの分布領域を明らかにする。AspRaseの特異的抗体が作製できなかった場合はin situハイブリダイゼーションを行い、AspRase遺伝子転写産物の分布を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は発現クローニングを行う予定であったが、当初の予定より遅れたために発現クローニングを行うことができなかった。したがって、その予算を使うことができず、次年度使用額が生じた。 平成30年度は発現クローニングを行うので、次年度使用額をその費用として用いる。また、今年度予算は当初の予定通り、リコンビナントタンパク発現や抗体作製および実験系プラスチック類などに用いる予定である。
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