補体系は病原体感染に迅速に応答する液性タンパク群であり、動物界において広く保存されている重要な自然免疫因子である。その中でも補体成分C5の活性化により生じるC5aは白血球の感染局所への遊走、活性化に重要な因子とされる。本研究ではゼブラフィッシュの組換えC5a(rzfC5a)及びそれに対する抗体(anti-zfC5a)を作製し、及びC5a受容体(zfC5aR)欠損個体を作製し、in vitro 及び個体レベルでC5aの機能を評価することを目指す。これまでにrzfC5a、anti-zfC5aを作製しそれぞれ白血球誘引活性とその阻害活性を確認し、またCRISPR/Cas9法によりzfC5aRまたその類似遺伝子(zfC5aR-like)の変異胚を得た。R1年度はこれまでに作製した研究ツールを用いたzfC5aの機能解析とゲノム編集による欠損系統の評価を中心に研究を行った。蛍光標識ザイモザンを用いゼブラフィッシュ腎臓由来好中球の貪食活性を試験したところ、rzfC5a投与により貪食活性が亢進された。またrzfC5a投与によって白血球のケモカイン遺伝子の発現が上昇したことから、補体活性化により産生されたzfC5aが白血球の遊走だけでなく、各種免疫活性を上昇させ更なる炎症反応の誘導にも寄与していることが示唆された。CRISPR/Cas9法によりzfC5aR、zfC5aR-likeを変異させた親魚(F0世代)を飼育しF1世代取得を試みたが、どちらの遺伝子においても欠損F1個体が得られなかった。顕微注入操作後に得られた変異個体が成熟魚ではみられなかったことから、発生後期あるいは生育段階で致死に働いていると考えられ、zfC5a/zfC5a受容体の未知の機能が示唆された。成熟魚の各組織における発現解析ではzfC5aRは頭腎等で高い典型的なC5a受容体の発現パターンを示したのに対し、zfC5aR-likeは全身での発現が検出され、2つの遺伝子間で機能分化が起きていることが示唆された。
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