最も原始的なサイトカインの一つと考えられているマクロファージ遊走阻止因子(Macrophage m igration Inhibitory Factor: MIF)は、進化的に保存された炎症反応のキーレギュレーターである可能性が指摘されている。一方で、進化的に保存された受容体は同定されていない。代表者はこれまで 、棘皮動物ヒトデの幼生の免疫細胞から2種のMIFを同定し、両者がそれぞれ走化性因子(ApMIF2)、走化性阻止因子(ApMIF1)として免疫細胞の移動を制御していることを明らかにした。本研究ではこの先行研究を基盤とし、進化的に保存されたMIF受容体とその下流シグナルの同定を目的としている。 本研究で行ったMIF刺激後の免疫細胞におけるde novoトランスクリプトーム解析の結果から、MIFの下流にはERK/MAPK経路及びPI3K/Akt経路が存在する可能性が示唆された。実際、これらの経路の阻害剤を用いたバイオアッセイにより、走化性因子であるApMIF2の下流にはERK/MAPK経路が、走化性阻止因子であるApMIF1の下流にはPI3K/Akt経路が存在していることを示唆するデータが得られた。一方で、抗ERK1/2抗体と阻害剤を組み合わせたwestern blot解析からは、ApMIF2の下流でERKが活性化されているという証拠は得られなかった。これについては今後さらに詳細に検討していく必要がある。 受容体探索についても、トランスクリプトーム解析で得られた発現変動遺伝子を用いた共発現ネットワーク解析により、ApMIF1、ApMIF2の受容体候補として、共にGPCRが1つ、受容体型チロシンキナーゼが1つずつ得られている。現在はこれらのノックダウンによる機能解析をすすめるとともに、酵母Two-Hybrid法を用いた受容体探索も並行して進めている。
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