研究課題/領域番号 |
17K15325
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
阿見彌 典子 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (20588503)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 夏眠 / 繁殖スキップ / 地域差 |
研究実績の概要 |
岩手県大槌湾で採集されたイカナゴでは,夏季の高水温期間を短くした夏眠の短期化個体と,高水温期間を長くした長期化個体は,水温に依存して夏眠を終了した.また,長期化群と砂を撹拌して夏眠を物理的に妨害した群では死亡個体数が多く,長期,撹拌,短期,自然群の順で死亡率は高かった.体長,体重および肥満度は,短期,自然,撹拌,長期群の順で大きかった.成熟個体は,自然群と短期群では確認されず,長期群で1月に,撹拌群で2月に各群1個体ずつ確認された.以上より,高水温期の長期化,および夏眠中の物理的な刺激は死亡個体数を増加させることが明らかとなった.しかし,本実験では基準としていた成熟可能な体長(8 cm)の個体が存在するにも関わらず,2個体しか成熟しなかった.本年度成熟した愛媛県斎灘個体と本実験で用いた大槌湾個体の夏眠開始前と終盤の成長を比較すると,斎灘個体では夏眠期前の肥満度がより高く,夏眠期終盤にかけて体長の伸長も認められた.したがって,夏眠期中の体成長を促すことを可能とするまでのエネルギー量を夏眠開始までに蓄積することが,その年の繁殖には重要であることが示唆された. 愛媛県斎灘で採集されたイカナゴでは,夏眠前の成長と夏眠開始初期の肥満度の減少傾向の違いが,両海域における成熟個体の出現度合いに影響を及ぼす可能性が示唆された.さらに,夏眠期または冬季の低水温はA. japonicusの卵の成熟を遅らせる,または抑制する可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
兵庫県の天然サンプルが入手可能となり,かつ,複数回の調査に同行させていただきメタボローム解析に供するためのサンプルが予想より多く収集できている.さらに,入手困難が予想されていた北海道周辺海域のイカナゴを研究室に輸送することができ,全ての実験の準備が早いうちに完了している. また,繁殖するかしないかだけではなく,本年度の結果より,水温が雌の性成熟に影響を与えるという予想以上に興味深いデータが得られたため,環境要因の変化が性成熟に与える影響を当初より幅広い視野で検証できる状況になったため.さらに,遺伝子の網羅的解析も進めることができ,今後,着目すべき遺伝子のデータが既にそろいつつあるため.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通りに研究を遂行する.予想以上にさまざまな地域からのサンプル収集に成功した.したがって,より詳細に地域差を行動,タンパク質,遺伝子レベルで比較する.当初は目的とするタンパク質および遺伝子を絞っていたが,網羅的に解析することを考慮して進めていく.特に,成長,成熟,摂食に関与する物質と夏眠との関連性も追求する.また,基礎生物学的な情報を,イカナゴ資源の減少要因の特定と合わせて検討していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究結果から,夏眠期と非夏眠期の違いを検討するために夏眠後のサンプルだけではなく,性成熟開始前の夏眠前のサンプルも必要であることが明らかとなった.そこで,本研究で重要なデータの1つとなるメタボローム解析にも,夏眠期以外で,かつ,未成熟の個体の脳が必要となった.そのサンプルは2018年5月に採集可能となり,次年度である2018年5月にサンプルが集まり次第,解析を開始することとなったため,次年度使用額が生じた.
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