研究課題/領域番号 |
17K15331
|
研究機関 | 農林水産省農林水産政策研究所 |
研究代表者 |
天野 通子 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (40643250)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | フードチェーン・アプローチ / GAP / EUHACCP / 公的認証 / 普及支援 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の海面養殖産業がグローバル化した食品安全システムにどのように対応すべきか、フードチェーンの視点で分析し、国際競争力を発揮できる産業として発展するための方向性を検討することである。本年度は、国内と海外でGAP(Good Aquaculture & Agricultural Practices)やHACCPの普及について実態分析を行った。 養殖ブリ輸出を行う九州の産地では、養殖場から水産加工場までの一連のフードチェーンを構築している。EU向け輸出を行う水産加工場は公的認証であるEUHACCPの認定を取得し、地域の保健所や県の水産部局が監視、モニタリング、衛生証明書発行等の役割を果たしている。加えて、ISO22000を取得する水産加工場もあり、養殖場に対して衛生基準や生産管理記録を求めている。養殖業者はこれらに答えながら、ASCやMEL認証の取得も進めている。しかし、東南アジア等の欧米向け養殖水産物で普及が進むGAPについては、取得しようという動きは確認できなかった。 タイでは養殖エビ、熱帯果樹のGAPの地方行政レベルでの普及支援体制と審査・認証体制について調査を行った。タイでは農産物基準法の下、公的GAPが制度化され、農業・協同組合省(Ministry of Agriculture & Cooperatives)にある各担当部局がサブスキームオーナーとなり、GAP運営の全体的責任を負っている。審査機関、検査機関、普及支援機関はそれぞれ担当部署が担い、第三者認証としての機能を確立している。調査を行ったチュンポン県の養殖エビ、チャンタブリ県の熱帯果樹は、第三者性の確保に努めた体制が県レベルでも確認できた。また、普及支援の場では生産者間で知識の共有を図る手法も活用されていた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内調査では、九州の養殖ブリ産地を事例に対EU輸出水産食品取扱要領に基づいてEU向け水産物輸出に取り組む産地を事例に、どのようにフードチェーン全体の管理を行っているのか実態把握をおこなった。本研究が対象とする養殖水産物では、これまでに国内養殖産地でEUHACCP認定を得る企業が所在する4県のうち3県の調査を進めている。また、この他に定置網漁業のサケ、輸入原料を利用した練り製品を対象としたEUHACCPの実態調査も進めてきている。最終年度に向けて、国内養殖産業がグローバル認証にどのように対応する必要があるかを検討するための一次調査として、一般的な養殖生産者の養殖生産管理の実態把握を試みた。 海外調査では、フードチェーン・アプローチの先進事例の一つとしてタイの欧米向け養殖エビ輸出と中国向け熱帯果樹の実態調査を引続き行った。タイでは、中小規模な養殖業者や農業者に公的認証制度によるGAPの普及を進めており、地方行政レベルでの普及支援体制及び審査体制が整っている。当初の計画では、東南アジアと中国がどのようにフードチェーン・アプローチを導入しているか把握することを研究の対象としていた。研究を進めるなかで、タイに絞ることで認証制度の把握、運用の実態を深く掴むことができると判断した。また、当初予定していた欧米市場むけ養殖エビだけでなく、中国向け熱帯果樹を対象とすることで、品目や輸出先によるフードチェーン・アプローチ適応の実態の違いを把握することができた。また、補足調査としてベトナムの輸出向け養殖エビのGAPやASCなどの認証取得支援について情報収集を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は4つの課題からなる。課題1は日本の海面養殖産業の品質管理・食品安全システムをフードチェーンの視点でとらえることである。課題2は日本の養殖業におけるGAPとHACCPの普及の実態について経営の実態を見ながら把握することである。 上記二つの課題は同時に調査を進めており、これまでに輸出向けの養殖ブリ、サケ等で研究を進めている。フードチェーンでの公的管理を求めるEUHACCPについては、担当する地方行政機関での実態把握も試みた。養殖ブリにおいては、事例分析として残された地域 があるため引き続き実態調査を検討したい。 課題3は、東アジアの輸出志向型水産業がどのようにフードチェーン・アプローチを導入し、機能しているかを把握することである。先進事例の一つであるタイに対象を絞り、制度的な枠組みを把握しながらGAP普及状況や普及支援・検査体制等の実態を分析している。 課題4は、海外の事例と国内の事例を比較しながら、日本の海面養殖業が国際競争力を高めるために必要とされる認証制度に対してどのように対応する必要があるか検討することである。 最終年度を迎えるため、養殖水産物に対象を絞ったフードチェーンの在り方を検討する。現時点では養殖業者に対する調査が不足しているため、次年度も引き続き継続したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究で主たる経費は旅費である。当初予定していた旅費支払いの一部が、所属先予算及び他の研究予算によって賄うことができ、支出を削減することができた。加えて、新型コロナウイルスによる移動自粛・制限の影響を受け、一部の予算執行計画を実施できなかった。 次年度では、当初配分予定額に繰越額を加えて、前年度に実施できなかった国内現地調査とタイでの追加調査のための支出計画をたてている。主な使途は旅費支払いと謝金等とする予定である。
|