本研究は、SDGsおよび「みどりの食料システム戦略」において、持続可能な農業に注目が集まる中で、環境保全や生物多様性への貢献を目的として開発された栽培技術体系(本研究では「生物多様性保全型技術」)を対象とした。具体的には、「コウノトリ育む農法」(兵庫県豊岡市)と「朱鷺と暮らす郷認証米」(新潟県佐渡市)を主な対象事例として、普及センターや農協、行政など関係者へのヒアリング調査および農業者へのアンケート調査を実施した。 「生物多様性保全型技術」の普及過程や農業者の意思決定の特質を解明することを通して、当該技術を速やかに普及させるために、普及センターや農協、行政などの普及主体が地域の農業者にどのような働きかけを行うか等の実践的・体系的な普及方法を提示した。研究期間全体を通じた研究の結果、「生物多様性保全型技術」の普及主体が、農法の開発段階と普及段階における活動を通して共通して持つべき視点として、以下の4点を抽出した。すなわち、1)農法の開発段階ではコウノトリやトキなど地域に固有なシンボルと関係が深い集落および農業者に重点的に働きかけを行う、2)導入にあたっての阻害要因などを特定し支援することで、農業者から見た技術的難易度を低下させる、3)対象技術の栽培要件や認証要件などに関する情報を継続的に提供する、4)シンボルとなる生物を用いたマーケティング活動を通してブランド化を実現し、農業者の所得を向上できるように経済的メリットを創出する。
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