本研究は,ダルシー則に従わない浸透流(非ダルシー流)の解析が不可欠な現場の問題に取り組むために研究代表者が開発してきたダルシー-非ダルシー流解析モデルについて,より一般的な土壌への適用可能性を検証して当該モデルの適用可能性を拡大し汎用性を向上させるとともに,非ダルシー流の解析が不可欠な現場の問題である土砂災害の発生に寄与する山地斜面への降雨浸透流や暗渠周りの浸透・排水流解析へ適用することを目的とする. 平成30年度は,前年度に改良したダルシー-非ダルシー流解析モデルを斜面土層における降雨浸透流解析への適用可能性について検討した.土層に充填する試料として5種類(砂利大(50%粒径:14mm),砂利小(50%粒径:8.3mm),ガラスビーズ(粒径:5mm,2mm,1mm))を用意した.これらの土層に対して斜面勾配を10%と20%,降雨強度を50mm/hと100mm/hの計4条件の降雨浸透実験を実施するとともに,本解析モデルによる数値解析を実施し,土層実験結果に対する数値解析結果(浸透流場・浸透流量)の再現性を調べ,本モデルの適用可能性を検証した. 土層末端での浸透流速からレイノルズ数を算出すると,粒径,斜面勾配,降雨強度が大きいほどレイノルズ数も大きくなり,砂利大土層の斜面勾配20%・降雨強度100mm/hで最大値(およそ10)を取り,これはダルシー流から非ダルシー流に遷移するといわれている範囲の上限値であった.数値解析による浸透流量の再現性については,離散化手法に採用したMPS法の解像度(粒子径)を1cm,0.5cm,0.2cmで比較した結果,粒子径を1cmから0.2cmすなわち1/5倍すると誤差が最大で1cm程度少なくなったが,反対に,計算時間は2倍に増えた.また,浸透流場全体でみると,本モデルでは考慮していない不飽和領域が観察された.したがって,このような問題への適用には,不飽和領域も解析できるよう本モデルの改良が必要である.
|