本研究の目的は,太陽光利用型植物栽培施設でのトマト栽培における生産性向上のために,裂果や尻腐れ果に代表される障害果の発生を防ぐ環境調節のための基礎的知見を提供することである。トマト果実への液流速度の制御が裂果・尻腐れ果発生防止の鍵であるとの仮説を検証するために,長・短期的な根域温度調節を組み合わせて根の吸液速度を制御する実験によって,果実への液流入速度と裂果・尻腐れ果発生率の関係を明らかにする。平成31年度 (令和1年度) には,尻腐れ果発生率にくわえて,果実直径,葉長・葉幅,および葉の気孔コンダクタンスの経週変化,さらには果房および葉の水ポテンシャル・Ca含量を調べ,葉および果実の成長と葉の蒸散が尻腐れ果発生に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 根域温度を約20℃ (以後,20℃区) または約30℃ (以後,30℃区) として栽培したトマト植物体から収穫された尻腐れ果の末端部Ca含量は,正常果のそれと比較して低い傾向であった。20℃区の尻腐れ果の果実直径は,20℃区の正常果のそれと比較して大きい傾向であった。30℃区の尻腐れ果が着生していた植物体あたりの蒸散速度は,30℃区の正常果のそれと比較して大きい傾向であった。これらの結果から,尻腐れ果発生の原因と考えられるCa欠乏を引き起こしたのは,20℃区では過剰な果実肥大であり,30℃区では過剰な蒸散であった可能性が高いと考える。 今回の実験のような場合であると,根域温度を30℃に制御する方が20℃に制御するよりも尻腐れ果の発生を抑制しやすいかもしれない。今回の実験における30℃区では,適当な強度の摘葉を施すなどの簡便な処理によって植物体あたりの蒸散速度を低下させることができるだろう。本研究から,尻腐れ果発生抑制のためには根域温度調節と同時に地上部蒸散調節が必要である可能性を見出した。
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