本研究の目的は,養液栽培における根域の物質移動現象を解析し,持続的かつ生産性の高い肥培管理法を提案することである。 課題Ⅰでは,植物生産場の環境と植物の養分吸収との関係の解析を目標として,環境制御下で植物を育成し,養水分吸収に対する養液温度,養液濃度,根域酸素濃度の作用を評価し,これまで構築してきた蒸散統合型イオン吸収モデルで解析した。その結果,吸水速度やイオン吸収速度と養液温度および養液濃度との関係をモデルにより評価することができた。 課題Ⅱでは,まず,培地内の水および酸素分布を評価・制御するための評価システムを構築した。これにより,培地内の酸素分布を測定し,培地内水分含量が高い条件において根の呼吸による酸素濃度の低下を測定可能であることを明らかにした。さらに最終年度では,培地耕条件下における根の養水分吸収速度と培地含水量および酸素量との関係を解析した。ナスを培地耕式養水分吸収速度計測システムに定植し,養水分吸収速度の経時変化を測定した。培地内の環境は,前年度までに構築した計測システムを用いて測定した。蒸散統合型養分吸収モデルを基にした,根域養水分動態応用することで表現できることを明らかにした。 課題Ⅲでは,養水分吸収モデルと量的管理を組み合わせて,栽培時に余剰な養液廃液を発生させない肥培管理方法を検証した。その結果,根域養分動態モデルにより最適な量的管理条件をシミュレーションにより求めることが可能となった。さらに,その条件で栽培したところ,全体として植物の窒素吸収速度を抑制せず,植物に与えた窒素全量を吸収させることができ,長期間に渡って生育速度にも大きな差が見られなかった。以上のことから,与えた窒素全量を吸収させきったタイミングで養液を廃棄することで,無駄な窒素を環境中に排出しない肥培管理が構築できる可能性が示唆された。
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