本研究では、計測対象の光散乱特性と吸光・発光特性を網羅的に計測する手法を開発し、食品の熟成に伴う物理的構造や化学成分の変化を調べることを目的としている。本年度は研究実施計画にしたがい、レーザー散乱計測システムを用いて複数の農産物・食品の計測を行い、力学的特性の推定を行なった。レーザー散乱計測システムでは、複数の単色レーザーを試料に照射し、散乱による光の広がりをカメラによって計測した。レーザー照射点からの光の減衰を定量化した散乱プロファイルから、計測対象の硬さや微細構造を推定した。 リンゴ果実の硬さ推定:貯蔵期間の異なるりんごを用意し、レーザー散乱計測と硬さ測定を行い、結果をもとに硬さ推定モデルを作成した。実測値と推定値の相関係数は 0.7~0.8、 誤差平均は 0.8~1.2(N)程度であり、この誤差平均は人 間の口腔感覚で判別できる差よりも小さいと考えられる。 チーズの熟成期間推定:プロセスチーズの製造に多く用いられるチェダーチーズを試料とした。直方体に切り出したチーズ試料に単色レーザーを照射した際の輝度を計測し、熟成期間との関係を調べ、熟成過程におけるチーズの散乱特性を取得した。 日本梨の貯蔵中の硬さ変化の推定:品種、貯蔵日数、貯蔵温度が異なる日本梨を用い、レーザーを日本梨に照射したときの輝度値のデータと、食感に関連する要素である「硬さ」のデータを計測した。さらに輝度プロファイルの特性と硬さを組み合わせて解析することにより、レーザー散乱を用いた非破壊計測手法で硬さを推定するモデル作成を検討した。
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