研究実績の概要 |
本研究では、生体中のグルコース異性体比を計測する新しい手法を開発することを目的に、生体情報の取得に優れ、かつ、分子の構造情報をリアルタイムで検出できる近赤外光を用いた解析をおこなってきた。 最終年度では、昨年度に見出したグルコースのアノマー異性体間における近赤外光の波形の違いについてさらに詳細な解析をおこなった。近赤外光では、水素の二倍の質量をもつ重水素を用いることで、置換した部分由来のシグナルだけを抽出することができる。そのため、グルコースの異性体間における近赤外光の波形の違いがどの官能基に由来するのかを詳細に調べる目的で、重水素化したグルコース(glucose-1-d1: C1炭素の水素を重水素に置換、glucose-6,6-d2: C6炭素の2つの水素を重水素に置換、glucose-d7: すべてのC-HをC-Dに置換)を用いた測定をおこなった。この際、近赤外光と旋光度を同時に測定することで、溶液中のα型・β型それぞれのグルコースの割合をモニタリングし、各異性体における各官能基のシグナルを抽出した。これにより、定義上の異性体の構造の違いであるC1炭素におけるC-Hだけではなく、C6炭素におけるC-Hの違いも近赤外光の波形中に現れていることが示唆された。また、溶媒に重水(D2O)を用いることで、グルコース異性体間の波形の違いが、周囲の水分子からも由来している可能性が示唆された。以上の解析から、近赤外光の波形中には、予想されていたC1炭素における違いだけではなく、それに伴って生じる別の箇所の構造変化や周りの水分子との相互作用の変化が反映されている可能性が考えられる。次のステップとして、最終年度にゲノム編集技術を用いて作出済みの細胞を用いて異性体比の検出を試みる。 また、昨年度の結果については、最終年度に査読付き国際誌にて発表し、国際学会では最優秀ポスター賞を受賞した。
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