研究課題
本年度はまず、ルーメン上皮バリアの発達要因を明らかにすべく、NGSデータの再解析を中心とした検討を行った。離乳前後の子牛のルーメン上皮組織のトランスクリプトームデータを、CLC workbenchにより再解析した。パスウェイ解析により、組織発達に伴って補体系やファゴサイトーシスが活性化される結果を得た。また上流因子解析からは、すでに見出していた菌体成分に加え、炎症性サイトカインが組織発達に関与することが考えられた。したがって菌体成分-サイトカイン-自然免疫応答の一連の反応が、ルーメン発達時に誘導される可能性が示唆された。昨年度の研究では、ルーメン上皮基底層においてSOX2陽性細胞を見出した。しかしサンプル数を増やした解析の結果、動物の成長に伴い基底層以外にも発現が見られたため、未分化マーカーとしての利用性に疑問が生じた。免疫染色による再検討により、Integrinが利用できることが判明した。これを受けて、ルーメン上皮細胞の培養方法も再検討を行ったところ、幹細胞の自己複製に関わる成長因子などを添加した培地を用い、培養皿をLamininコーティングした場合、良好な細胞接着、細胞増殖が観察された。この培養細胞は上述したインテグリンを発現していた。また、培養日数を経ると敷石状の細胞コロニーが融合し、強固な上皮シートを形成した。本年度の研究から、まずルーメン発達過程において菌体成分がサイトカインを介して上皮組織の免疫反応を促進する可能性が新たに示唆された。また、ルーメン上皮細胞の培養系を改良し、上皮シートを体外で培養することが可能になった。一方で、未分化マーカーの再探索に想定以上の時間を要し、菌体成分の作用機序の検討についてはまとまったデータが得られなかった。今後は、確立したルーメン細胞培養系を利用して、上皮バリアと免疫機構を誘導する分子的機序を詳細に検討する必要性が提示された。
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Journal of Animal Science
巻: 96 ページ: 2226-2237
10.1093/jas/skx016.