生体内において必須アミノ酸であるトリプトファンは酵素によって代謝されると一般的に考えられているが、ニワトリの血漿中には非酵素的化学反応によってグルコースと結合した(糖化)トリプトファン、すなわち非酵素的トリプトファン代謝産物が存在する。この事実は、トリプトファンを含むアミノ酸代謝には従来の酵素代謝経路とは異なる代謝経路が存在することを示す。糖化アミノ酸はタンパク質合成に用いられないため、アミノ酸の糖化はアミノ酸の栄養価値を損なうと考えられる。新規アミノ酸代謝経路を明らかにすることに加え、アミノ酸の非酵素的化学反応を抑制することでニワトリの生産性向上を試みた。今年度はメチルグリオキサールとトリプトファンの非酵素的化学反応によって生体内で産生する代謝産物の同定と生体内における存在量を試みた。当初想定していたよりも多くのトリプトファンの代謝産物が候補として合成できたものの、ニワトリ生体内におけるそれら化合物を定量するには至らなかった。これは生体サンプルの前処理法の改良および分析系の高感度化が必要であることを意味する。また、アミノ酸の非酵素的化学反応を抑制するため、抗糖化化合物として知られるメトホルミンを添加した飼料をニワトリに給餌したところ、卵用種および肉用種の両方で浅胸筋重量が増加した。一方で、タンパク質分解が亢進していることも示唆されており、糖化反応の抑制が鶏肉の生産性向上につながる可能性が示唆された。
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