本年度は、前年度までに明らかとなったオートファジー制御とウシ胚発生能との関係について、その詳細をより明らかにするために、オートファジー関連遺伝子および胚発生関連遺伝子の発現解析を行った。オートファジー誘導により、4細胞胚におけるオートファジー関連遺伝子であるLC3、ATG5、ATG7のmRNAおよび活性型であるLC3-Ⅱタンパク質発現が大幅に増加した。また、オートファジー経路の活性化は、4細胞期胚における母性因子であるBMP15、GDF9およびFSTの有意な減少を引き起こすことが確認された。さらに、オートファジーを誘導された胚は、胚盤胞期胚において胚発生関連遺伝子(BCL2、MnSOD、SOX2、POU5F1、NANOG、PLAC8、IFN-τおよびGLUT5)の発現が有意に上昇しており、品質が高いことが示唆された。以上の結果、オートファジー誘導処理を体外受精後3日間行うことで、ウシ体外生産胚の発生能を向上させることが示された。 また、オートファジーと同様にタンパク質代謝に関わる小胞体にも着目し、小胞体ストレスが胚発生能に及ぼす影響について調べた。その結果、体外発生培養中に小胞体ストレスを低減することが、体外発生率の向上に加えて、胚の耐凍性を向上することに重要であることが明らかとなった。同様に、ウシ卵丘-卵母細胞複合体の体外成熟培養における小胞体ストレスと発生能との関係を調べた結果、小胞体ストレスにより、卵母細胞を取り囲む卵丘細胞でのアポトーシスが誘導されるとともに、卵母細胞内の酸化ストレスレベルも上昇することが明らかとなった。一方、小胞体ストレスの阻害によって卵成熟率および受精後の胚発生率が向上した。これらの結果から、小胞体ストレスが体外生産胚の発生能低下に深く関与しており、それを制御することで、高品質な胚を生産することが可能であることが示された。
|