研究課題/領域番号 |
17K15366
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
林田 京子 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 博士研究員 (40615514)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トリパノソーマ / 血清抵抗性 / トランスクリプトーム / 人獣共通感染症 |
研究実績の概要 |
ヒトアフリカトリパノソーマ症は人獣共通感染症であり、Trypanosoma bruceiの亜種によって引き起こされる。家畜にのみ感染するT. b.bruceiやT. evansiとヒト感染性T. b. rhodesiense, T. b. gambienseの違いは、霊長類の有するApoL1をエフェクターとするトリパノソーマ抵抗性因子 (TLF) に対し、原虫が抵抗性を獲得したか否かで決定される。共通祖先を有するこれらのトリパノソーマ種のゲノム配列は極めて類似しているが、ヒト感染性トリパノソーマ原虫がヒト血清抵抗性を獲得するメカニズムは完全に明らかではない。T. evansiがヒトに感染する事例も少数ながら報告されており注意を要する。 そこで本研究では、トリパノソーマ原虫の寄生性進化のメカニズムの本態を解明することを目的に、ヒト血清抵抗性の異なる野外分離株の解析と、家畜感染性トリパノソーマ原虫のヒト血清への試験管内馴化と解析を試みた。 これまでにザンビア共和国で分離したT. b. rhodesiense原虫株のヒト血清に対する抵抗性試験を行い、抵抗性が低~中程度であったChirundu(-S)株、ヒト血清に対する抵抗性が高いUTH2012(-R)株を培養した。また、Chirundu(-S)株を徐々にヒト血清濃度を上げて馴化させたChirundu (-R)株を作製した。さらに、本来ヒト血清に高い感受性を有するT. evansi 原虫を試験管内でヒト血清に6か月かけて徐々に濃度を上げていくことで馴化させた。結果、ヒト血清濃度に対するIC50が0.0005%であった原虫株T. evansi (-S) から、0.1%の濃度でも増殖維持可能なクローンT. evansi (-R) を5株得ることに成功した。これらのRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行った。抵抗性R株と感受性S株の発現情報の差異を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は試験管内によるトリパノソーマ原虫、特にヒト血清へ強い感受性を有する本来家畜感染性であるT. evansi の馴化を試み、結果順調に抵抗性クローンを得ることに成功した。結果次年度に予定していた次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析まで終了することができた。詳細な解析は今後行う予定であるが、特にT. evansiの馴化株の解析結果ではレセプター領域の有意な発現減少という興味深い事象を確認することができた。一方で、分子間相互作用の解析のために当初ApoL1蛋白を大腸菌で精製する計画をしていたものの、現在のところ収量が確保できず難航している。ApoL1そのものの毒性による影響が考えられた。総じて、今年度の目標は概ね達成したものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
発現解析の結果の詳細な解析をさらに進める。特に野外株の解析については、昨年度は1クローンのみの解析で統計的に有意な遺伝子の絞り込みが困難であったため、再度独立実験を行うことでデータの信頼性を上昇させる予定をしている。発現変化のあった遺伝子について、個々の機能と照らしあわせて、必要な場合遺伝子組換え原虫の作成により仮設の実証を行う。また、ApoL1抗体や細胞小器官マーカー染色などを用いて機能の推測を行う。発現変動遺伝子の変化がエピジェネティックなものによるのか確認するために、ヒト血清に馴化した株から再度ヒト血清を抜いて数ヶ月継続的に培養し、フェノタイプの継時的変化を観察する。一方、分子間相互作用を直接観察するためのApoL1蛋白の作製と免疫沈降による解析も引き続き継続して進める。得られた結果を総合して家畜トリパノソーマ原虫がどのようにヒト感染性トリパノソーマへと分子進化を遂げてきたか、家畜感染性トリパノソーマの人獣共通感染症としてのリスクの考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度蛋白精製に計上していた試薬類は、蛋白発現が条件検討段階で難航しているため今年度購入することができなかった。これらのことで余剰が生じたため、次年度で使用を計画している。
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