研究課題
Trypanozoon亜属には動物にのみ感染する亜種とヒトにも感染する亜種が含まれる。これら亜種の遺伝子配列は非常に類似しており、その感染宿主と分布域で分類されている。ヒトアフリカトリパノソーマ症は本亜属のうちヒトへの感染性を有する2亜種により引き起こされる。一方、Trypanosoma evansi原虫はTrypanozoon亜属に属するが家畜にのみ感染する亜種であり、世界中に分布する。これらの寄生宿主の違いは霊長類の血清中に含まれるTLFが、家畜感染性亜種を溶解させることに起因し、通常T. evansiはごく低濃度のヒト血清の添加で死滅する。本研究では、家畜感染性T. evansiのヒト血清への試験管内馴化を行ない、TLFに抵抗性を示すT. evansi培養株を得ることに成功した。本原虫の遺伝子発現解析を行なったところ、TLFの原虫側レセプターであるHpHbRを含む遺伝子群の有意な遺伝子転写減少が認められた。また、本抵抗性はヒト血清除去により感受性に戻り、HpHbRの発現も血清添加前と同じ程度に回復した。このようにT. evansiの血清抵抗性は可逆性の変化であることから、エピジェネティックな変化であることが示唆された。HpHbRのmRNA発現減少は、ヒトアフリカトリパノソーマ症を起こすT. brucei gambienseでも報告されているヒト血清抵抗性獲得メカニズムの1つであることから、自然界においても、家畜トリパノソーマT. evansiのヒトへの感染性獲得が同様な分子機構で起こりうる可能性が示唆された。T. evansiはアフリカ大陸以外にもアジア・南米の家畜に広く蔓延していることから、新たな人獣共通感染症の潜在的原因として、注意が必要であることが示唆された。
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