研究実績の概要 |
血清を用いたメタボローム解析から、インフルエンザウイルスA/PuertoRico/8/34(H1N1型)(PR8株)感染マウスではクエン酸回路の中間代謝物濃度が低下しており、クエン酸回路におけるエネルギー産生が低下していることが示唆された。脂肪酸合成酵素であるAcetyl-CoA Carboxylase Beta (Acacb)、Fatty Acid Synthase (Fasn)及びStearoyl-CoA Desaturase 1 (Scd1)の遺伝子発現量が感染マウスの肝臓において大きく減少していた(Acacb, 0.21-fold; Fasn, 0.19-fold; Scd1, 0.0073-fold)。興味深いことに、感染マウスの肝臓において長鎖脂肪酸をペルオキシソームに輸送するトランスポーターであるATP Binding Cassette Subfamily D Member 2 (Abcd2)の遺伝子発現量は増加していたが(9.1-fold)、続く脂肪酸β酸化の律速酵素であるAcyl-CoA Oxidase 1 (Acox1)及びCarnitine Palmitoyltransferase 1 Beta (Cpt1b)の遺伝子発現量は変化がなかった。また、Aktリン酸化を指標としたインスリン感受性試験において、感染マウスの肝臓ではインスリンに対する感受性が低下していることが明らかになった。インスリンシグナルが阻害されることで、感染マウスでは糖の利用能が低下している可能性が考えられる。本研究から明らかになった、インフルエンザウイルス感染による宿主体内でのエネルギー代謝障害は重症インフルエンザの新たな治療標的として有望であると考えられる。
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