インフルエンザは毎年流行する身近な感染症でありながらいまだに全世界で年間50万人ほどの死者を出しており、克服されたとは到底言い難い。重症化したインフルエンザの有効な治療法が確立していないことがその大きな要因である。重症インフルエンザの本態は過剰な宿主応答が引き起こす多臓器不全であることが想定されているが、その詳細は明らかではない。本研究では、宿主因子のコントロールによる重症インフルエンザの治療法の確立を目指し、マウスモデルを用いてインフルエンザ重症化に関与する宿主因子の探索を行った。 インフルエンザウイルスをマウスに経鼻感染させ[A/Puerto Rico/8/1934(H1N1; PR8)株、500 plaque forming units]、重症インフルエンザマウスモデルを作出した。この系を用いてエネルギー代謝への影響を調べたところ、インフルエンザウイルス感染によって肝臓のインスリン感受性の低下、全身性グルコース利用能の低下、肝臓における脂肪酸代謝の変化が観察され、過去に明らかになっている脂肪酸代謝の抑制に加えて、糖代謝の抑制が重症インフルエンザで起こることが示された。さらに、感染マウスにおいてプロトロンビンフラグメント1+2濃度の増加が観察され、重症インフルエンザにおおいて血液凝固異常が引き起こされていることが強く示唆された。 本研究成果は、宿主のエネルギー代謝改善及び血液凝固異常の解消が重症インフルエンザの新規治療法確立のための標的となりうることを示すものである。
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