研究実績の概要 |
血管新生阻害療法は肺がん組織の新生血管を標的として,がんの成長と転移を阻害する治療法であり,現在VEGF の中和抗体や受容体阻害剤が主に投与されている。しかしながら,VEGFをターゲットとする薬剤の単独投与では抗がん効果が期待ほど認められていないことから,がん血管新生を標的とする新薬の開発が困難となっている。 近年,がん組織内血管は,がんへの酸素や栄養供給の役割に加えて,近接するがん細胞に影響を与えることが明らかになってきた。Luらは血管内皮細胞がJagged-1分泌を介して,大腸がん細胞の幹細胞性を亢進し,抗がん剤への抵抗性を促進させることや,転移のトリガーとなり得ることを報告しており,がん細胞・血管内皮細胞間の相互作用の重要性が示唆されている( Lu J, Ye X, Fan F, et al. Cancer Cell 2013; 23:171-185)。 そこで、肺がん上皮と血管内皮の相互作用をオルガノイド培養において再現するために,我々はマトリゲルに播種したマウス肺がんオルガノイド上にヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)を播種し,マトリゲルを介した共培養システムを考案した。 マウス肺がんオルガノイドとHUVECsを共培養すると,2-3時間後にHUVECsのマトリゲル上への管腔形成が誘導され,1日後まで持続的に観察された。共培養後2-3日が経過すると,HUVECsの管腔構造が崩れ,マトリゲル内のオルガノイドへの血管内皮細胞の遊走と接着が見られた。また,上皮細胞マーカーE-cadherin, 血管内皮細胞マーカーCD31の二重染色によってもオルガノイド内に,CD31陽性の細胞が認められたことから,マトリゲルを介した共培養によってオルガノイドへの血管内皮細胞の遊走および接着が引き起こされることが示唆された。
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