研究課題/領域番号 |
17K15373
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 真伍 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (60708593)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Bartonella quintana / サル / 塹壕熱 / 細菌性血管腫 / MLST / 抗アポトーシス作用 / HUVEC |
研究実績の概要 |
Bartonella quintanaは塹壕熱(発熱,筋肉の痛み等)の原因菌で,シラミが本菌のベクターである。免疫不全者がB. quintanaに感染すると,血管内皮細胞のアポトーシスが抑制され、細菌性血管腫を発症する。これまでに,海外では研究用のアカゲザルやカニクイザルからB. quintanaが分離されている。我々は野生ニホンザルにも本菌が分布していることを明らかにし,平成29年度の本研究では,わが国の研究機関Aにおいて飼育されているニホンザル(個体ID:TB1)からもB. quintanaを分離している。 平成30年度には、サルの健康診断の一環として研究機関Aからニホンザル血液を再び収集し,本菌の分布状況と分離株の遺伝子性状を解析した。さらに,ヒト血管内皮細胞(HUVEC)に対するニホンザル由来MF1-1株の接着・侵入能を解析し,抗アポトーシス作用の責任遺伝子であるbepA(約1.5kbp)の有無を検討した。その結果,2頭のニホンザル(個体ID:MN51,57)からB. quintanaが分離され,MLST法によってこれら分離株はMF1-1株と共にST22に型別された。陽性の3頭は、2009年に野外から同施設へ導入され、外部寄生虫の駆虫処置を受けた後、産地ごとに群飼育されていた。Bartonellaは回帰性の菌血症を引き起こすことから,当該のサル3頭は野外でB. quintanaに感染し,施設内で長期間,本菌を保有していた可能性が考えられた。 MOI=1の条件下でMF1-1株をHUVECに感作させたところ,2時間後から菌の接着・侵入が確認され,48時間後には10.4%の接着・侵入率であった。MF1-1株,TB1-1株,MN51-1株,MN57-1株からbepAを検出したところ,いずれの株においても本遺伝子の大部分が欠損しており,その塩基長は僅か180bpであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の実施計画では,HUVECに対するサル由来B. quintanaの感染性を検討することが目標であった。蛍光顕微鏡を用いた本菌株の接着・侵入能を評価できたため,概ね計画が順調に進展していると思われる。しかしながら,サル由来B. quintanaが感染したHUVECを電子顕微鏡によって解析する計画などは未実施のため,次年度の検討課題である。 蛍光染色済のサル由来株をHUVECに感作させ蛍光顕微鏡下で観察したところ,細胞内にBartonellaと思われる構造物を確認できた。この結果から,サル由来株はHUVECへの細胞侵入能を有していると思われる。一方,サル由来株のゲノム上には抗アポトーシス作用を担うbepAが欠損していると推定されたことから,サル由来株による腫瘍誘発能についてはさらなる検討が必要であると考えられた。 既報のヒト由来株や中国のアカゲザル由来株にはbepAがコードされている。しかしながら,本研究によってbepAを欠損するB. quintanaの存在が初めて明らかとなったことから,MF1-1株についてbepAのみならず,病原性関連遺伝子を網羅的に解析できるようなゲノム解析の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の実施計画では,サル由来株のHUVECに対する抗アポトーシス作用をin vitro下で評価する予定である。平成30年度には,サル由来株のHUVECに対する接着・侵入能を確認できたとともに,同菌株のゲノムには抗アポトーシス作用を担うbepAが欠損していると推測された。そこで平成31年度には,in vitroの感染実験に用いるB. quintana株(MF1-1株など)の全ゲノム配列を決定し,B. quintanaのゲノムに関する基盤情報の構築も検討中である。平成30年度の予備的検討において,MF1-1株の全ゲノム配列をほぼ決定できたため,得られた全ゲノム情報から病原性に関わると推定される遺伝子を同定し,同菌株の抗アポトーシス作用の有無についてゲノム解析からもアプローチ可能であると予測される。 また,研究機関Aから再びサル血液を収集することが可能であった場合,前年度同様に研究用サルにおけるB. quintanaの分布状況とその遺伝子性状を引き続き検討していく予定である。
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