研究実績の概要 |
Bartonella quintanaは塹壕熱の原因菌で,ヒトの赤血球や血管内皮細胞に持続感染する。本菌に感染した免疫不全患者では,血管内皮細胞のアポトーシスが抑制されることにより,感染細胞が腫瘍化する。近年,Macaca属のサルも本菌を保有していることが明らかとなったが,サル由来B. quintanaのヒトへの病原性は未だ不明の状態である。平成29および30年度の本研究では,わが国の研究機関Aにて飼育されているニホンザル3頭(個体ID:TB1,MN51,MN57)からB. quintanaを分離した。さらに,野生ニホンザル由来のMF1-1株はヒト血管内皮細胞への接着・侵入能を有していること,MF1-1株と研究用ニホンザル由来株は抗アポトーシス作用の責任遺伝子であるbepAを欠失していることも明らかとなった。 これまでの結果から,ニホンザル由来B. quintanaは,bepAを欠失しているユニークなB. quintana株であると考えられる。平成31(令和元)年度には,ニホンザル由来株の全ゲノム配列を決定し,ゲノムの基本構造を比較解析するとともに,bepAを含めた病原性関連遺伝子の性状を解明した。MF1-1株のゲノムサイズは1,588,683bpで,オートアノテーションプログラムDFASTによりrRNAとtRNAのコピー数はそれぞれ6コピー,42コピー,CDS数は1,305個と推定された。MF1-1株とヒトおよびアカゲザル由来株のゲノム構造を比較すると,MF1-1株では約700kbの逆位配列が認められ,四型分泌機構のゲノム構造を維持しながらbepAのみが欠失していることが明らかとなった。これらの成績から,進化の過程においてニホンザル由来のB. quintanaは大規模なゲノム再構成を伴いながら,病原性の一部を失ってきた可能性が推察された。
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