本研究において、2019年度は前年度に引き続きイヌ骨肉腫細胞株(POS)を用いたがん幹細胞の放射線耐性機序およびイヌ腫瘍細胞株12種におけるPI3K/mTOR経路の解析を行った。放射線耐性機序およびPI3K/mTOR阻害薬耐性機序の両面から解析を実施したところ、がん幹細胞(CSC)の放射線耐性はメトフォルミンでリバースされるものの、PI3K/mTOR阻害薬ではリバースされず、CSCにおいてPI3K/mTOR経路の異常活性化も認められなかった。PI3K/mTOR阻害薬に持続的に暴露して作成した耐性株の解析においても、CSCマーカーの発現レベルは非耐性株と同程度であり、CSCの放射線耐性機構においてPI3K/mTOR経路の関与は低いと判断された。 よって、CSCの放射線耐性機構の解明に向けて、細胞内シグナル伝達経路ではなく、メトフォルミンの作用点としてミトコンドリア呼吸鎖の関与を想定し、Electron spin resonane法による解析を行った。その結果、CSCは基底状態での酸素消費量は通常細胞と同等なものの、放射線照射時に一過性に酸素消費量を増加させる高い予備能を有していることが分かり、それにより放射線照射による細胞死を免れていると考えられた。 CSCの放射線耐性機構を解析する上で、純粋なCSCを分離する技術にも取り組み、現行の方法(スフェア形成法)よりも高精度にCSCを分離する方法が必要となる。そのために、蛍光色素遺伝子を導入し、細胞集団中のCSCを可視化する試みを行った。CSCは、正常細胞と比べて極端にプロテアソーム活性が低いことが知られている。この特徴を利用し、プロテアソームで分解されるように配置した蛍光色素遺伝子(Zs-Green)を腫瘍細胞株にレンチウィルスベクターを用いた手法で親細胞株に導入した。現段階でイヌ骨肉腫細胞株および移行上皮癌細胞株で発色を認めている。
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