研究課題/領域番号 |
17K15377
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 淳 東京大学, 農学生命科学研究科, その他 (00554487)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体内組織形成術 / 猫 / 尿管閉塞 |
研究実績の概要 |
まず、5歳齢、雌の健常猫3頭を用い、生体内組織形成術を用いて、尿管の代替移植材料となるバイオチューブの作製を行った。全身麻酔下で背側皮下に内径1mmの筒状鋳型を埋没した。2ヵ月後に摘出してバイオチューブを回収し、移植まで70%エタノール中に保存した。2頭では厚みのあるバイオチューブが得られたが、1頭ではバイオチューブの形成が不十分で、バイオチューブの作製効率には個体差が認められた。バイオチューブが作製できなかった1頭に対しては、他の猫で作製したバイオチューブの移植(他家移植)を行った。全身麻酔下で、それぞれの猫の左側尿管中央部から膀胱まで切除したのち、ステントを通した長さ約2cmのバイオチューブを尿管近位切断部および膀胱に縫合した。移植では、健常猫の尿管径が、最小径の市販ステントと比較しても細かったため、ステント設置時の尿管損傷が生じた。移植後は1ヵ月毎に尿路造影CT検査および血液生化学検査を定期的に行った。その結果、全頭で移植1か月後までに左側腎臓の腎盂拡張や尿管の重度拡張が起こり、BUNおよびCreの顕著な上昇もみられた。ステントは移植後1ヵ月で抜去したが、腎盂および尿管の拡張は残存し、左側腎臓における尿産生が顕著に低下した。移植後3ヵ月後に安楽死を行い、移植部のHE染色、マッソントリクローム染色による組織学的評価を行ったところ、バイオチューブ内腔は線維性組織が充満し、尿路の完全閉塞を認めた。また、閉塞部遠位の尿管においても広範囲に炎症細胞が浸潤しており、ステント設置時による尿管の医原性損傷が病理組織学的にも重度であると考えられた。したがって、本年度用いた尿路移植モデルではステントによる尿路損傷も重度であったため、尿管へのバイオチューブ移植の適合性について、評価が困難であり、移植モデルの再検討が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度は、生体内組織形成術を用い、バイオチューブによる短距離(約2㎝)尿管再建の安全性・有効性を移植後3及び6か月後まで検討したのち、長距離(6㎝)のバイオチューブの作製を検討する予定であったが、健常猫へのステントを用いたバイオチューブ移植が手技的に困難であったため、移植部位ではない尿管の損傷が広範囲に生じてしまった。医原性損傷により、移植自体の有効性・安全性を明瞭に描出できなかった。 この結果を受け、尿管ステントを用いない、バイオチューブ移植モデルを検討する必要が生じたため、現在ラット尿管を用いて基礎的な検討を進めている。ステントを用いない移植方法の安全性の検証が終了次第、猫での短距離バイオチューブ移植を再度検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度前半は、ラットを用いた実験に切り替え、ステントを用いずにマイクロサージェリーを適用し、ラットで作製したバイオチューブの尿管への移植を行い、移植の安全性を検討し、新たな尿管バイオチューブ移植法を確立する。ラットでの検討が済み次第、猫で再度、短距離(2cm)での尿管再建を試み、3あるいは6か月の経過観察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定した研究結果が得られず、データがなかったため、学会や投稿論文として発表する機会を得られなかったため、旅費や印刷費に係る経費が少なかった。次年度は予定を一部変更し、ラットでの検討を加えた後、猫で再検討を行うため、今年度未使用分は新たに加えたラットを用いたバイオチューブ移植法の検討に用いる。
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