研究実績の概要 |
近年、急性の重症病態回復後に認められる筋力低下intensive care unit acquired muscle weaknessに対する骨格筋異化を抑制する介入の必要性が検討されている。急性炎症下では、運動は不可能であり、薬物と栄養投与による筋萎縮予防が重要である。本研究では、骨格筋の脂質メディエーターを網羅的に解析し、急性炎症下骨格筋萎縮への関与を明らかにすることを目的としている。また、抗炎症作用を有するトリブチリン経口投与による筋萎縮抑制効果も明らかにする。なお、トリブチリンは酪酸のprodrugである。 本年度は、急性筋萎縮モデルラットでの骨格筋からの脂質メディエーター産生におけるトリブチリン経口投与効果を検討した。エンドトキシン(LPS)投与1時間前に脂肪乳剤に溶解したトリブチリンを経口投与し、LPS投与後0, 6, 24時間後に速筋の長趾伸筋と遅筋のヒラメ筋を採取し骨格筋内の脂質メディエーターをLC-MS/MSで網羅的に解析した。脂質メディエーター濃度は長趾伸筋よりヒラメ筋で全体的に高く、LPS投与後、いずれの筋でもPGE2が増加したが、トリブチリンによる抑制効果は認めなかった。LTB4もLPS投与後増加しており、これはトリブチリンによって産生が抑制され、その効果は長趾伸筋のほうが顕著であった。またヒラメ筋でのみエイコサペンタエン酸由来の5-HEPEをトリブチリンが抑制する結果も得た。本研究を通じて、トリブチリンはエンドトキシン誘発筋委縮を軽減する結果を得ており、筋委縮への脂質メディエーター関与の可能性が考えられる。トリブチリンは食品成分であるため、安全に、しかも日常的に摂取することができる。日常的な酪酸摂取による認知症進行予防が報告されており、サルコペニアを介する各種病態での予後改善にも作用しうると考えられ、幅広い臨床応用への波及効果が期待できる。
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