犬の前立腺癌は雄犬において発生する悪性腫瘍であるが、有効な全身治療法はない。BRAFは、MAPK/ERK経路を構成する分子であり、この活性化は腫瘍の増殖や病態進行に重要な役割を果たしていると考えられている。近年、犬前立腺癌においてBRAFの点突然変異が高頻度に発現することが報告された。 昨年度は、犬前立腺癌細胞におけるMEK阻害剤のin vitro抗腫瘍効果を明らかにした。本年度はMEK阻害剤のin vivoでの有効性を検証するため、犬前立腺癌細胞 (CHP-2細胞) を免疫不全マウスに皮下投与し、腫瘍形成を確認した後、昨年度のin vitro研究で腫瘍細胞増殖抑制作用が最も強力であったMEK阻害剤Trametinibを0.3 mg/kgまたは1.0 mg/kgで1日1回、21日間経口投与した。結果として、阻害剤投与群では投与開始3日目より腫瘍増殖が抑制され、コントロール溶媒を経口投与したコントロール群と比較して、MEK阻害剤0.3 mg/kg投与群で平均77% (p < 0.001)、1.0 mg/kg投与群で平均85%の腫瘍縮小効果が得られた。 また、犬前立腺癌細胞 (CHP-1、CHP-2およびCHP-3細胞) に対し、3種のERK阻害剤 (Ulixeretinib、GDC-0994およびSCH772984) について細胞増殖抑制試験を実施し、それらのin vitro抗腫瘍効果を検討した。結果として、3種のERK阻害剤のうちSCH772984は、BRAF変異陽性犬前立腺癌細胞株において、高い細胞増殖抑制効果を示すことが明らかとなった。
|