本研究課題は、哺乳動物の血液および精液に含まれる糖質加水分解酵素の酵素学的機能を明らかにし、それらの生理機能を考察することを目的としている。 血液中の酵素に関しては、ブタ血清由来のデンプン分解酵素(SsMGAM)の組換え酵素を生産し、その酵素学的性質を明らかにした。遺伝子比較からSsMGAMは2つの触媒ドメインを有すると推察されたため、N末端側ドメインとC末端側ドメインのそれぞれを組換え酵素として生産して機能解析した。両ドメインは共通して、デンプン分解物(マルトオリゴ糖)を加水分解してグルコースを遊離する酵素活性(α-グルコシダーゼ活性)を有していた。一方、マルトオリゴ糖の鎖長に対する特異性は両者で異なっていた。N末端ドメインは二糖や三糖といった短鎖基質に対して高い特異性を示したが、C末端ドメインは可溶性デンプンなどの長鎖基質に対して高い特異性を示すことを明らかにした。以上の結果から、本酵素は特異性の異なる2つのドメインを併せ持つことで、多様な鎖長の基質を効率よく分解できることが示唆された。ただし、血清中に多様な鎖長のデンプン分解物が流入するという報告はなく、本酵素の生理機能(すなわち血清中における本酵素の基質)を推察するには至らなかった。 精液中の酵素に関しては、α-グルコシダーゼの阻害剤であるアカルボースをカップリングさせたクロマトグラフィー担体を調製してブタ精漿からの酵素精製を試みたが、標的酵素は担体に結合せず、酵素を精製することはできなかった。 ブタは、血清には中性に至適pHを持つα-グルコシダーゼ(SsMGAM)を大量に含む一方で、精漿には酸性に至適pHを持つα-グルコシダーゼをごく微量に含むことが明らかとなった。以上の結果から、酸性および中性条件におけるα-グルコシダーゼ活性の比較によってブタ精液中への血液混入を検出できる可能性が示唆された。
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