研究課題/領域番号 |
17K15391
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新井 大祐 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (20624951)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
Nodal遺伝子はマウスES細胞においてエピジェネティック制御領域(ERE)により発現誘導されている。先行研究において、マウスES細胞ではEREがグルコース反応性のヒストン修飾であるH2AS40-Gcを受けており、培地中のグルコース濃度により修飾レベルが変化することを見出した。しかし前年度の研究より、培地中のグルコース濃度がマウスES細胞におけるNodal遺伝子の発現レベルに影響を与えないことがわかった。EREは細胞分化に伴いH3K27me3修飾を受けて機能が抑制される。そこで本年度はH2AS40-Gcの関わりを分子レベルで探っていくための準備として、EREの制御メカニズム、特にエピジェネティックな制御についての研究を進めた。前年度の研究でEREを様々な長さで欠失させたマウスES細胞を樹立している。これらの細胞の比較検討から、Oct4-Klf4モチーフを含む極めて短い領域の欠失がNodal遺伝子の発現を顕著に減少させるのに十分だとわかった。しかしながら、Oct4-Klf4モチーフ欠失細胞でもNodal遺伝子の発現は10%程度残存していたため、他の制御領域も発現誘導に参加していると考えられた。既知の関連シグナル阻害剤を用いた検討を進めているが、今のところマウスES細胞におけるNodal遺伝子発現を変動させるものは見つけられていない。CRISPR/dCas9法によりゲノム上の特定の領域にH3K27me3修飾を付加するためのベクター、同様にH3K27me3を脱修飾するためのベクターを構築し、機能評価を進めている。CRISPR/dCas9法による特異的効果と比較するため、EPZ6438処理により核全体にわたりH3K27me3を減少させたマウスES細胞について、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グルコース濃度がNodal遺伝子の発現に影響を及ぼさないため、グルコース-H2AS40-Gc-遺伝子発現という単純なカスケードを描くことができず、明確な働きを示せていない。一方、EREを中心に詳細な解析を進めるための細胞やベクターの準備は十分に進んでいる。今後はEREを主軸に分子機構を調べていく。
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今後の研究の推進方策 |
H3K27me3とH2AS40-Gcの相互関係を明らかにするため、CRISPR/dCas9によりH3K27me3レベルを増減させたEREのH2AS40-Gc状態をクロマチン免疫沈降法(ChIP)により解析する。また、H3K27me3によるEREの機能抑制がASEやPEEなど他の既知エンハンサーのH2AS40-Gcやクロマチン状態にどのような影響を与えるかをChIPやDNase感受性試験により確認する。Oct4-Klf4モチーフ欠失ES細胞をグルコース濃度の異なる培地で培養し、Nodal遺伝子発現やヒストン修飾、クロマチン状態への影響を調べることで、転写因子制御との関係を明らかにする。また、CRISPR/dCas9とO-GlcNAc修飾酵素・脱修飾酵素を組み合わせたゲノム標的特異的O-GlcNAc調節法を確立し、推測されたH2AS40-Gcの機能の証明に活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初計画をやや変更し、研究ツールの準備や基礎的な検討を主に実施したため、残額が生じた。最終年度にChIPなど高額費用を要する解析を集中的に行うので、これに充てる。
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