研究課題/領域番号 |
17K15393
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小林 功 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (30774757)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / ゼブラフィッシュ / 細胞接着分子 / インテグリン |
研究実績の概要 |
発生過程において造血幹細胞は、背側大動脈の腹側壁に存在する内皮細胞の一部が内皮-造血転換という過程を経て造られる。しかしながら、造血幹細胞の発生メカニズムには不明な点が多く、分子レベルでの解明が求められている。本研究では、発生学の研究において利点の多いゼブラフィッシュを用い、造血幹細胞の発生に関わる分子機構の解明を目指している。報告者は初年度の研究によって、細胞接着分子の一つであるインテグリンのシグナルが造血幹細胞の発生に不可欠であることを示した。インテグリン由来シグナルを阻害できるトランスジェニック系統UAS:DN-itg-mCherryと、血管内皮細胞でDN-itg-mCherryの発現を誘導できるfli1a:Gal4系統を掛け合わせ、得られたダブルトランスジェニックの胚において、造血幹細胞のマーカー遺伝子であるrunx1の発現を調べたところ、背側大動脈においてrunx1の発現が顕著に低下していた。一方、このDN-itg-mCherry発現胚に、インテグリンの下流でシグナル伝達に関わることが知られている活性型FAKを強制発現すると造血幹細胞の発生が正常に近いレベルにまで回復していた。これらのことから、造血幹細胞の発生にはFAKを介したインテグリン由来シグナルが不可欠であることが示された。さらに、ゼブラフィッシュには哺乳類のFAK遺伝子のホモログとしてfakaおよびfakbの2つが同定されているが、ゼブラフィッシュ胚においてfakaは脊索の一部にしか発現していないのに対し、fakbは造血幹細胞の出現部位である背側大動脈の腹側壁に発現していた。このことから、ゼブラフィッシュではfakbが造血幹細胞の発生に必須なインテグリン由来シグナルのシグナル伝達に関与しているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、造血幹細胞の発生に関わる分子メカニズムの一端を解明することが目的であり、大きな特徴としてライブイメージングに長けたゼブラフィッシュをモデル生物として利用することである。ゼブラフィッシュでは、遺伝子の機能を阻害することができるだけでなく、遺伝子の機能を抑制した際に、細胞の動態にどのような変化が起きるのかをライブイメージングを駆使することによって明らかにできるという利点がある。そのため、報告者らは細胞の動態やシグナル伝達に関わるインテグリン分子に着目し、その造血幹細胞発生における役割を解明することに重点を置いた。これまでの研究から、造血幹細胞の発生にはインテグリン由来シグナルが必須であり、さらにそのシグナル伝達に関わることが予想される候補分子としてfakbを同定している。このように、造血幹細胞の発生を制御する細胞接着分子としてインテグリンを同定することに成功したため、今後のライブイメージング解析によってインテグリン由来シグナルが造血幹細胞の発生過程、とくに内皮-造血転換の過程でどのような役割を有するのかについての解析に移行できるところまで進めることができたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から造血幹細胞の発生には、FAKを介したインテグリン由来のシグナル伝達経路が必須な役割を果たすことを示している。インテグリンは細胞接着分子として細胞と細胞、または細胞と細胞外マトリックスの接着を促進し、さらにその接着を介して様々なシグナル伝達を行う分子である。また、インテグリンは細胞外から細胞内へシグナルを伝えるOut-in signalと、細胞内シグナルによって細胞外の接着を制御するInside-out signalの2通りが知られている。従って、DN-itg-mCherryによってインテグリンのシグナルを阻害すると細胞外からのシグナル伝達が阻害されるだけでなく、細胞内からのシグナル伝達も阻害され、細胞間の相互作用にも影響を及ぼすものと考えられる。そこで、今後はDN-itg-mCherry発現胚において発生途中の造血幹細胞の前駆体をライブイメージングで追跡し、いつ、どこで、どのような影響が認められるのかを観察する。さらに、インテグリン由来のシグナル伝達経路がどのような分子の制御に関与するのかについてより詳細に解析していく予定である。
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