研究課題
発生過程において造血幹細胞は、背側大動脈の腹側壁に存在する内皮細胞の一部が内皮-造血転換という過程を経て造られる。しかしながら、造血幹細胞の発生メカニズムには不明な点が多く、分子レベルでの解明が求められている。本研究では、発生学の研究において利点の多いゼブラフィッシュを用い、造血幹細胞の発生に関わる分子機構の解明を目指している。報告者は当該研究期間において、細胞接着分子の一つであるインテグリンのシグナルが造血幹細胞の発生に不可欠であることを示した。インテグリン由来シグナルを阻害できるトランスジェニック系統UAS:DN-itg-mCherryと、血管内皮細胞でDN-itg-mCherryの発現を誘導できるfli1a:Gal4系統を掛け合わせて得られるダブルトランスジェニックの胚では背側大動脈における造血幹細胞の数が著しく減少していた。また、このダブルトランスジェニック胚において、インテグリンの下流でシグナル伝達に関わることが知られているFAKを強制的に活性化させると造血幹細胞の発生が正常に近いレベルにまで回復していたことから、造血幹細胞の発生にはFAKを介したインテグリン由来シグナルが不可欠であることが示された。さらに、網羅的な遺伝子発現解析および遺伝子変異体の解析を通して、インテグリン由来シグナル伝達経路はPI3Kを介して膜タンパクをコードするlrrc15の発現を制御していることを突き止め、Lrrc15が実質的に造血幹細胞の発生を直接的に制御する分子であることが明らかになった。このように、本研究ではゼブラフィッシュ胚を用いてインテグリン由来のシグナル伝達経路が膜タンパクLrrc15の発現を制御することによって造血幹細胞の発生に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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Developmental Cell
巻: 49 ページ: 1-16
10.1016/j.devcel.2019.03.023