研究課題/領域番号 |
17K15398
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
菊田 真吾 茨城大学, 農学部, 助教 (90718686)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トランスポーター / ノックアウト / カイコ / トレハロース / トレハラーゼ阻害剤 |
研究実績の概要 |
開放血管系である昆虫において、糖は体液から組織へ供給される。昆虫の主要な血糖のトレハロースはグルコース二分子で構成される二糖類である。トレハラーゼ阻害剤を施与されたカイコは、致死もしくは蛹化異常を引き起こすことが知られており、トレハロース関連酵素やトランスポーターを標的とする新規薬剤作用点となる可能性がある。昆虫のアラタ体は、内分泌器官のひとつとして生体の恒常性維持や成長に関わる生体内分子を分泌する。これまでカイコを用いた研究で、体液中に存在するトレハロースは、脳とアラタ体に発現するトレハラーゼ II(TREH2)により分解され、グルコースの形態でトランスポーターを介して細胞内に輸送されると考えられてきた。しかしながら、カイコ血糖はトレハロースであり、グルコースは検出限界以下であることやTREH2のトポロジーが明らかとされていないことなどからアラタ体への糖分子の輸送経路は不明なままである。本研究課題の目的は、アラタ体への糖の輸送を明らかにすることである。本課題申請時に、申請者は、カイコトランスクリプトームから新規のトレハローストランスポーター候補遺伝子TRET2を同定した。TRET2遺伝子は、脳とアラタ体において高発現であった。このことから、カイコのアラタ体への糖輸送は、グルコースではなく血糖のトレハロースを取り込み、細胞内でトレハロースがTREH2により分解、代謝される可能性が示唆される。トランスポーターTRET2の機能を明らかにするとともに生体への影響を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は次の3点に大別された。1. トレハローストランスポーターTRET2の機能解析 2. トレハラーゼ TREH2の局在 3. CRISPR/Cas9によるTRET2ノックアウトカイコの作製である。1. TRET2の機能解析について in vitro合成により得られたTRET2 mRNAをアフリカツメガエル卵母細胞にマイクロインジェクションし、細胞膜にトランスポーターを発現させた。この卵母細胞を用いて卵母細胞内にトレハロース取り込みの有無を調べた。その結果、TRET2はトレハロースを輸送するトランスポーターであった。トレハロースの他にも、わずかながらではあるがマルトースやスクロース輸送活性が認められた。TRET2が発現する組織に接する体液には、これらの糖は検出限界以下であることを考えれば、TRET2は主にトレハロース輸送の役割を担うことが考えられた。2. TREH2の局在を明らかにするために、抗体作製を試みた。TREH1とのアミノ酸相同性が高く、交差性を考慮し、配列が異なるC末端領域を抗原とした。免疫組織化学的手法により、アラタ体の反応を調べたところ、非常に強く染色された。現在、染色条件などを検討している。3. CRISPR/Cas9法によるTRET2ノックアウトカイコの作製について TRET2の配列は同定済みの遺伝子TRET1との相同性が高いことがわかった。核酸レベルで相同性が低い領域を標的とし人工的にgRNAを作製した。Cas9タンパクは市販品を購入し、産卵後のカイコ卵に微量注射された。現在、ノックアウトホモ系統の作出を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、計画に従って研究を遂行する。昨年の年度途中に、申請者は大学を異動したことにより、研究遂行にやや遅延することが懸念されたが、課題遂行には影響が少ないようにセットアップ中である。研究計画の変更はない。具体的には、TRET2ノックアウトカイコを作製し、生体への影響を評価する。またアラタ体から分泌されるホルモン(JH)をバイオセンサーを用いて定量し、野生型と比較する。TREH2の局在を明らかにする。一連の研究を論文としてまとめることが今後の計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者の所属異動により、研究遂行に遅延があったため。次年度の消耗品購入に充てる。
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