動物の体色は生物の適応度に密接に関わる重要な形質であり、高度に洗練されたしくみを介して形成されている。植食性の昆虫類では葉組織に紛れ込む緑色の隠蔽型の体色をもつものが多い。一般に、昆虫の緑体色は黄色のカロテノイド色素と青色のビリン結合タンパク質の組み合わせで形成されるが、カロテノイドの乏しい植物の汁液を利用するカメムシ類昆虫ではどのように緑色の体色を形成しているのか不明であった。そこで、本研究課題では共生微生物による色素供給の可能性を疑い、チャバネアオカメムシとその腸内共生細菌を用いて、この仮説の検証に取り組んだ。共生細菌を実験的に大腸菌へと置換するとチャバネアオカメムシは正常な緑体色を形成せず、ビリン結合タンパク質およびカロテノイド色素の双方が宿主カメムシの体内から検出されなくなった。黄色のカロテノイド色素に関しては、ゲノム解析により共生細菌がカロテノイド合成能をもつことや、HPLC-MSを用いた解析からゼアキサンチンを主成分としたカロテノイド類を合成することを明らかにした。また、共生細菌や大腸菌のカロテノイド合成能を遺伝学的に操作し、生成されるカロテノイド組成を変化させると、それに対応する形で宿主カメムシの表皮中のカロテノイド組成も変化することを実証し、宿主昆虫が共生細菌の合成するカロテノイド色素を自身の体色として利用していることを明らかにした。さらに、共生細菌が合成したカロテノイド色素の利用を担う輸送タンパク質を同定した。また、対象を幅広い分類群のカメムシ類へと広げ、カロテノイドによる体色形成と共生細菌の関係性の調査を進めた。
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