本研究では、19世紀末にお雇い外国人教師として来日し、東京大学において教鞭を取ったハインリッヒ・マイルに注目し、新しく得られた資料やマイルによる直筆スケッチを整理することで、マイルの国際交流の学問、特に林学への影響を議論し、日本の林学発展における貢献を考察した。用いた資料は、ドイツで発見された家族による伝記とスケッチリスト、マイルが設立した実験林の樹種リストであり、それらを分析して日本の文献に記載されている既存の知見と比較しながら、どのような国際交流が実際に行われていたかを多角的に理解した。 結果として、マイルが詳細に日本の樹木や森林、そして地域や人々の文化を観察し理解しようとしていたということ、そして人との交流を大事にしていたということが明らかになった。日本が開国後まもなく、他国との往来が簡単ではなかった時代に林学の基礎を築くにあたり、ドイツと日本を繋ぐ重要な人物になったマイルによる知識の伝達が役立ったものと考えられる。他方、ドイツにとっても外国産樹種の理解と活用、そして広く森林経営に果たしたマイルの功績は大きいとわかった。開国したばかりで西洋諸国にとっては未開の地であった日本の植生が知られるようになったきっかけの一つとして、マイルの貢献があったといえる。特に、林業において外国産樹木をどう扱うか方針を立てる上で、マイルが実地を徹底的に見たことで得られた、外国産樹種とその生育環境に関する知識は役立ったと考えられる。 得られた成果は英語論文として執筆中であり、国際誌に投稿予定である。
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