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2017 年度 実施状況報告書

酵母における活性イオウ分子:システインパースルフィドの生理的役割の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17K15408
研究機関東北大学

研究代表者

西村 明  東北大学, 医学系研究科, 助教 (30781728)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2019-03-31
キーワードシステインパースルフィド / 活性イオウ分子 / 出芽酵母 / システニルtRNA合成酵素
研究実績の概要

システインにイオウが過剰に結合したシステインパースルフィド(CysSSH)は高い求核性・還元性を有しており、生命活動に極めて重要だと考えられている。これまでに我々は、CysSSHが翻訳関連酵素cysteinyl-tRNA synthetase (CARS)によってシステインから生合成されることを見出している。本研究では、出芽酵母をモデル生物として活用することで、CysSSHの生理機能の解明を目指した。
平成29年度では、先ずゲノム情報から酵母CARS遺伝子の同定を試みたところ、酵母CARS遺伝子(CRS1)は他の生物種で認められるようなサイトゾル型やミトコンドリア型の区別がないことが示唆された。GFP-tagによる細胞内局在解析においても、CRS1翻訳産物はサイトゾルとミトコンドリアに両局在していることが確認された。両局在化のメカニズムを解析した結果、CRS1は複数の転写開始点を持つことで、1つの遺伝子から2つのタンパク質(サイトゾル型とミトコンドリア型)を発現していることを見出した。次に、CysSSH合成活性に必要なピリドキサルリン酸結合部位に変異を導入し、CysSSH量が減少した株(一倍体)の作製に成功した。この株は野生株に比べて経時寿命の大幅な低下が認められ、減少した寿命が活性硫黄ドナーや硫化水素ドナーでほぼ完全に回復することを発見した。以上より、出芽酵母もCARSによるCysSSH合成経路が保存されていることが明らかとなった。また、CysSSH合成経路が真菌類である酵母細胞にとって極めて重要なシステムであることから、この経路の阻害剤は抗真菌剤の候補になると考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、当初計画していた酵母CARS遺伝子(CRS1)の局在および転写機構の解析を行い、CRS1はミトコンドリア形成に関与するHap複合体転写因子依存的に転写開始点を調節することで、一つの遺伝子からサイトゾル型とミトコンドリア型を発現していることを発見した。また、大腸菌から調製した組換えCrs1がCysSSH合成活性を有していることも確認できた。さらに、CysSSH合成活性に必要なピリドキサルリン酸結合部位に変異を導入し、CysSSH量が減少した株の作製に成功した。この株は野生株に比べて経時寿命の大幅な低下が認められ、減少した寿命が活性硫黄のドナーで回復することを発見した。このように、研究目的である酵母CARSの局在化機構を解明した、また、CysSSH機能解析のための変異株の作製に成功し、この株を用いてCysSSHが寿命の制御因子であることを発見した。以上より、研究は計画通り進んでおり、おおむね順調に研究が進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

今後は今年度作製した変異株を用いて、CysSSHの寿命制御機構を詳細に解析する予定である。先ずは、寿命過程における経時的な細胞内CysSSH量やポリスルフィドタンパク質の変動を解析する。さらに、これまでの文献で寿命に関与すると知られているERストレスおよび、タンパク質酸化障害、マイトファジーに注目し解析を進め、CysSSHの寿命制御機構を解明する。また、CysSSHの制御機構の生物種普遍性を明確にするために、線虫を用いた実験も行う。

次年度使用額が生じた理由

本年度は、実験に使用する試薬、消耗品などの物品費が当初の予定よりも少ない額で目的を達成することができたため。
ERストレスおよび、タンパク質酸化障害、マイトファジーの検出のために、質量分析用消耗品および、蛍光プローブ、各種抗体の購入に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿するための英文校正、論文投稿費用として使用する。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] イオウ呼吸の発見 ペルスルフィド産生酵素による新しいエネルギー代謝2018

    • 著者名/発表者名
      西村明、赤池孝章
    • 雑誌名

      現代化学

      巻: 565 ページ: 55-59

  • [雑誌論文] Cysteinyl-tRNA synthetase governs cysteine polysulfidation and mitochondrial bioenergetics2017

    • 著者名/発表者名
      Akaike Takaaki、Ida Tomoaki、Wei Fan-Yan、Nishida Motohiro、Kumagai Yoshito、Alam Md. Morshedul、Ihara Hideshi、Sawa Tomohiro、Matsunaga Tetsuro、Kasamatsu Shingo、Nishimura Akiyuki、Morita Masanobu、Tomizawa Kazuhito、Nishimura Akira、Watanabe Satoshi、Inaba Kenji、Shima Hiroshi、Tanuma Nobuhiro et al
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 8 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41467-017-01311-y

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Exposure to Electrophiles Impairs Reactive Persulfide-Dependent Redox Signaling in Neuronal Cells2017

    • 著者名/発表者名
      Ihara Hideshi、Kasamatsu Shingo、Kitamura Atsushi、Nishimura Akira、Tsutsuki Hiroyasu、Ida Tomoaki、Ishizaki Kento、Toyama Takashi、Yoshida Eiko、Abdul Hamid Hisyam、Jung Minkyung、Matsunaga Tetsuro、Fujii Shigemoto、Sawa Tomohiro、Nishida Motohiro、Kumagai Yoshito、Akaike Takaaki
    • 雑誌名

      Chem Res Toxicol

      巻: 30 ページ: 1673~1684

    • DOI

      10.1021/acs.chemrestox.7b00120

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 活性イオウ分子:システインパースルフィドの新規生合成経路の発見とその生理機能2017

    • 著者名/発表者名
      西村明、赤池孝章
    • 雑誌名

      硫酸と工業

      巻: 70 ページ: 1-9

  • [学会発表] Helicobacter cinaediの骨髄内持続感染と動脈硬化病因論2018

    • 著者名/発表者名
      西村 明、松永哲郎、津々木博康、小野勝彦、守田匡伸、藤井重元、井田智章、澤智裕、河村好章、赤池孝章
    • 学会等名
      分子予防研究会
  • [学会発表] 細菌と真菌におけるシステインパースルフィド産生機構とその生理的意義2018

    • 著者名/発表者名
      西村 明、高木博史、松永 哲郎、井田 智章、守田 匡伸、藤井 重元、 本橋ほづみ、赤池 孝章
    • 学会等名
      日本細菌学会
  • [学会発表] 酵母におけるシステインパースルフィド合成経路と生理的役割の解明2017

    • 著者名/発表者名
      西村 明、那須野 亮、松永 哲郎、井田 智章、笠松 真吾、守田 匡伸、藤井 重元、高木 博史、赤池 孝章
    • 学会等名
      日本NO学会
  • [学会発表] 種横断的システインパースルフィド産生酵素:Cysteinyl-tRNA synthetase2017

    • 著者名/発表者名
      西村明、井田智章、赤司壮一郎、守田匡伸、松永哲郎、 笠松真吾、藤井重元、赤池孝章
    • 学会等名
      生理研研究会
  • [学会発表] 酵母におけるシステインパースルフィド合成経路とその生理的役割の解明2017

    • 著者名/発表者名
      西村 明、吉川雄樹、松永 哲郎、井田 智章、守田 匡伸、藤井 重元、高木 博史、赤池 孝章
    • 学会等名
      酸化ストレス学会
  • [学会発表] Helicobacter cinaediの骨髄内持続感染と動脈硬化病因論2017

    • 著者名/発表者名
      西村 明、松永 哲郎、守田 匡伸、藤井 重元、井田 智章、澤 智裕、河村 好章、赤池 孝章
    • 学会等名
      生体防御学会
  • [学会発表] 酵母における活性イオウ分子種:システインパースルフィドの産生とその生理的役割2017

    • 著者名/発表者名
      西村 明、吉川雄樹、松永 哲郎、井田 智章、守田 匡伸、藤井 重元、高木 博史、赤池 孝章
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム
  • [学会発表] Characterization of cysteinyl-tRNA synthetase for production of cysteine hydropersulfide2017

    • 著者名/発表者名
      Akira Nishimura, Tomoaki Ida, Tetsuro Matsunaga, Masanobu Morita, Minkyung Jung, Shigemoto Fujii, Hozumi Motohashi, Takaaki Akaike
    • 学会等名
      AARS2017
    • 国際学会
  • [学会発表] 酵母における活性イオウ分子種:システインパースルフィドの生理的役割の解明2017

    • 著者名/発表者名
      西村 明、吉川雄樹、那須野 亮、松永 哲郎、井田 智章、守田 匡伸、藤井 重元、高木 博史、赤池 孝章
    • 学会等名
      日本生化学学会
  • [図書] レドックス疾患学2018

    • 著者名/発表者名
      井田 智章、西村 明、守田 匡伸
    • 総ページ数
      276
    • 出版者
      羊土社
    • ISBN
      978-4-7581-0369-5
  • [備考] 世界初:哺乳類における「硫黄呼吸」を発見 - 酸素に依存しないエネルギー代謝のメカニズムを解明 -

    • URL

      https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/10/press20171025-02.html

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公開日: 2018-12-17  

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