糸状菌Magnaporthe oryzaeにより引き起こされるイネいもち病は、最も深刻なイネ病害の一である。その防除には、イネへの侵入に必要とされるメラニンの生合成系酵素に作用するMBI-D剤またはMBI-R剤、ミトコンドリア電子伝達系タンパク質に作用するQol系殺菌剤が一般的に用いられてきたが、近年、それらの薬剤への耐性菌が発生し、全国的に分布拡大が見られ問題となっている。申請者らは、新規防除法の開発を行うために、イネいもち病菌菌体外におけるセルロース分解系に関与するセロビオース脱水素酵素(CDH)に着目して研究を進めている。平成29年度は、イネいもち病菌が有する2種類のCDH(MoCDHホモログ1とMoCDHホモログ2)の生物学的特性ならびに生化学的特性を比較するために、メタノール資化性酵母Pichia pastorisを用いたタンパク質発現系を構築した。 平成30年度は、酵母により発現させたMoCDHホモログ1とMoCDHホモログ2の単一精製をそれぞれ行った。次に、基質としてセロビオースを用いて、精製したMoCDHホモログ1とMoCDHホモログ2の酵素活性のpH依存性を検討したところ、MoCDHホモログ1はpH 7.5、MoCDHホモログ2はpH 4において、それぞれ最も高い酵素活性を示すことが明らかになった。さらに、前年度に遺伝子クローニングを行ったCDHの電子伝達パートナー候補タンパク質の酵母発現系の構築を行い、リコンビナント体の作製に成功した。MoCDHホモログとの電子伝達反応を検討したところ、電子伝達パートナー候補タンパク質の還元反応が観測されたことから、M. oryzaeのセルロース分解系において、このタンパク質がMoCDHの電子受容体として働く可能性があることが示唆された。
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