細胞分裂を伴わずにDNA複製を繰り返し、核DNA量を増やす特殊な細胞周期様式であるDNA倍加は、植物に広く見られる現象である。DNA倍加を起こすと劇的な細胞成長が起こるため、植物が効率よく器官サイズを増大させるのにDNA倍加は有効な戦略であると考えられる。しかし、DNA倍加の分子メカニズムの全貌は殆ど分かっていない。研究代表者はこれまでにDNA倍加にはDNA複製後の特定のステージ(G2期)での染色体構造の緩和が必須であり、それが特定のエピジェネティック修飾を介して行われている可能性を示唆する結果を得ている。しかし、その制御系は未知であった。 まず、G2期の進行に中心的な役割を持つCDKB1を欠損した変異体のG2期核のクロマチン動態を観察した。その結果、cdkb1変異体ではヘテロクロマチンが緩和していることが明らかになった。このことから、CDKB1がG2期にクロマチン凝縮を促進する働きを持つことが示唆された。 次に、CDKB1がG2期にヘテロクロマチン化を促進するメカニズムの解析を行った。CDKB1のリン酸化基質の同定を進めた結果、当初予想していたATXR6ではなく、ATXR6と協働してヘテロクロマチン化を促進する働きを持つCAF-1複合体の構成因子であるFAS1およびFAS2がCDKB1によって直接リン酸化されることを見出した。さらに、CDKB1によるFAS1とFAS2のリン酸化部位を同定した。現在、このリン酸化部位に変異導入し、リン酸化の生理的意義を明らかにする準備を進めている。 これらの結果から、植物にはCDKB1-CAF-1複合体経路が存在し、G2期にクロマチンを凝縮させることで、分裂からDNA倍加への移行を阻害している可能性が示唆された。
|