前年度、系内発生アミド塩基の1電子移動型反応によって、ハロゲン化アレーンと電子不足C-Hアレーンのクロスカップリング反応が効率的に進行することを示した。しかし、電子豊富な芳香族複素環化合物との反応では、目的化合物は低収率に留まっていた。本年度は、この収率向上を目指して、様々な添加剤の効果を検討した。電子不足な芳香族化合物のフェナジンを触媒量添加すると、目的の反応が円滑に進行することを見出した。具体的には、ヨードベンゼンとN-メチルピロールの反応を取り上げ、フェナジンを添加しない場合には目的のカップリング体は全く得られなかったが、20 mol%のフェナジンの存在下では収率71%で目的物が得られた。4-ヨードベンゾニトリルを反応基質とした際にも、同様の顕著な収率向上が認められた。この理由として、ヨウ化アレーンあるいはアリールラジカル中間体がフェナジンと相互作用して、それらの求電子性が向上したためと考えている。また、反応機構解析として、重DMSO存在下で反応を行ったところ、4-ヨードベンゾニトリルのヨウ素原子が重水素と置換された生成物が得られた。この結果と、前年度に実施した、ラジカル阻害剤との反応、EPRスペクトル測定から、中間体としてアリールラジカル種が発生していると結論した。 また、本研究の過程で、系内発生アミド塩基が芳香族複素環化合物の炭素-水素結合のホルミル化反応を触媒することも見出した。例えば、10 mol%のテトラメチルアンモニウムおよび2当量のトリストリメチルシラン存在下で、ベンゾチオフェンのDMF溶液を撹拌すると、ホルミル化体が収率93%で得られた。従来の強塩基を利用する反応系では極低温条件を必要としたが、本反応は室温下で実施できる。さらに、エステル、シアノ、アミド等の求電子性官能基を含む高い官能基耐性を有することを示した。
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