研究課題/領域番号 |
17K15434
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神庭 圭佑 京都大学, エネルギー理工学研究所, 研究員 (00795049)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体分子 / NMR / 相互作用 / APOBEC3G / HIV |
研究実績の概要 |
ヒトAPOBEC3G(A3G)タンパク質は、ウイルスDNAを改変することによりHIVに対する生体防御を担う。一方でHIVのVifタンパク質はA3Gを無力化する。ヒト細胞中では、Vifタンパク質はヒトのE3ユビキチンリガーゼ複合体と複合体(Vif複合体)を形成する。今年度はVif複合体によるA3G活性の阻害と各構成タンパク質間の相互作用に着目した。 Vif複合体存在下で全長A3G及びA3GC端ドメインの活性を比較した結果、いずれの場合もVif複合体はA3Gの活性を阻害することが明らかになった。VifによるA3G阻害のメカニズムを明らかにするために、Vif複合体中の各構成タンパク質とDNA及びA3Gとの相互作用をそれぞれ評価した。Vif複合体はDNAと強い相互作用を示す一方で、複合体中の他の構成因子はDNAとほとんど相互作用しなかった。また、標識したA3GC端ドメインのNMRスペクトルを測定することにより、A3GC端ドメインは静電相互作用によりVif複合体と相互作用することが明らかになった。以上の結果から、VifによるA3Gの阻害にはVif複合体とDNA間の相互作用とA3G間の相互作用の双方が重要であることが明らかになった。 さらに、標的配列を含むDNAと標的配列を含まないDNAが混在する溶液中で、A3GC端ドメインの活性を評価したところ、A3GはDNA上の標的配列を探索する際に、あるDNAから別のDNAに移動(ストランド間移動)することを示唆する結果を得た(Kamba et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2018)。通説ではストランド間移動は複数ドメインからなるタンパク質に特有の現象と考えられていた。単一ドメインから成るA3GC端ドメインにつて本論文で発表した結果は従来の知見を覆す発見であり、2018 PCCP HOT Articlesに選ばれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、Vif複合体がA3Gの活性を阻害することを示し、そのメカニズムがVif複合体とDNAとの相互作用と、A3Gとの静電相互作用であることを明らかにした。並行して、Vif複合体中の各構成タンパク質を個別に安定同位体標識する方法を確立した。Vifのみを安定同位体標識したVif複合体のNMRスペクトルを得ることはできたが、分子量が大きいこともあり、解析するには十分なスペクトルを得られなかったが、他の構成タンパク質を安定同位体標識することでVif複合体およびその阻害剤の最適化を行うための準備を整えた。今年度得た活性測定、分子間相互作用、A3Gの物性解析で蓄積した知見を併用し、VifによるA3G阻害に拮抗する薬剤のスクリーニングを行う準備が確立された。
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今後の研究の推進方策 |
Vif複合体中の個別の分子を選択的に標識し、良好なNMRスペクトルを得られるよう、コンストラクトの最適化を行う。今年度得た活性測定、分子間相互作用、A3Gの物性解析で蓄積した知見を併用して、VifによるA3G阻害に拮抗する薬剤のスクリーニングを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた測定を一部行わなかったため。論文投稿の費用を見積もっていたが、今年度投稿した雑誌には論文掲載料がかからなかったため。
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