近年、がんの再発・転移に、がん幹細胞が関与している可能性が示されている。がん幹細胞では、グルタチオン(GSH)の発現量が増大しており、その結果、がん幹細胞は抗がん剤に対して治療抵抗性を示す。研究代表者らは、テトラゾラト架橋白金(II)二核錯体(テトラゾラト架橋錯体)が、GSHによる解毒を受けにくく、シスプラチンに対して耐性を示すがんや、がん幹細胞に対しても有効である可能性を見出している。また、テトラゾラト架橋錯体は、大腸がんに対してin vivo抗腫瘍効果を発揮することが確認されている。本研究では、テトラゾラト架橋錯体のGSHとの反応性およびヒト大腸がん幹細胞に対する有効性を評価した。 2017年度は、テトラゾラト架橋白金(II)二核錯体は、生理的条件下において、シスプラチンと比較して、GSHとの反応性が低いことを明らかにした。続いて、テトラゾラト架橋錯体のin vitro細胞毒性に対する細胞内GSH量の影響を調べるため、HCT116ヒト大腸がん細胞を用いて細胞内GSH量を増減させる条件検討を行い、細胞内GSH量を減少させる条件を決定した。2018年度は、シスタチオニンβ合成酵素遺伝子のノックダウンによって細胞内GSH量を増加させる条件検討を行ったところ、非処置群(対照群)と比較した場合に、細胞内GSH量が増加する条件を明らかにすることができた。また、ヒト大腸がん幹細胞を用いて、がん幹細胞塊の増殖抑制効果を評価した。フルオロメチル基を有するテトラゾラト架橋錯体において、がん幹細胞塊の形成数が減少したことから、がん幹細胞の増殖を抑制する可能性があることが示唆された。本研究で得られた知見は、テトラゾラト架橋錯体の構造最適化に有用であり、より有効な次世代白金制がん剤の候補化合物の創出に寄与すると考えられた。
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