研究課題/領域番号 |
17K15438
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
河野 裕允 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (60732823)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | EPR効果 / 磁性リポソーム / 外部磁場 / がん治療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、磁性リポソームを利用したEnhanced Permeability and Retention (EPR)効果の増強により難治性がんに対する微粒子性抗がん剤の有効性を改善できることを明らかにすることである。平成30年度は、磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体を用いたEPR効果増強法の最適化と、本システムを利用した際のドキソルビシン内封PEG修飾リポソーム製剤の抗腫瘍効果の変化について検討した。まず、磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体の投与から磁場付加までの時間間隔と磁場付加時間について検討を行った。その結果、マウスメラノーマ細胞株B16/BL6を皮下に移植して作製した固形がんモデルマウスに対して複合体を静脈内投与し、5分後に30分間腫瘍組織に対して磁場付加を行うことで、その後に投与するPEG修飾リポソームの腫瘍内移行量が顕著に増大した。また、その他の組織における複合体移行量の変化は認められず、マウスの死亡や体重変化も認められなかったことから、本システムは安全に腫瘍組織内の血管のみを障害し、EPR効果を増強できることが示唆された。そこで、本システムとドキソルビシン内封PEG修飾リポソームを併用した際の抗腫瘍効果を評価した。磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体の投与と磁場付加による腫瘍増殖抑制効果は認められなかった一方で、ドキソルビシン内封PEG修飾リポソームと併用した場合には顕著に高い腫瘍増殖抑制効果と生存日数の延長が認められた。以上より、磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体と外部磁場を併用することにより難治性がん組織におけるEPR効果を増強することができ、それにより微粒子性抗がん剤の治療効果を向上できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体を利用することでマウスメラノーマ固形腫瘍におけるEPR効果を増強でき、その後に投与するドキソルビシン内封PEG修飾リポソームの効果を改善できることを明らかにした。一方、本検討はネオジム磁石を用いて皮膚表面から磁場を付加して行った基礎的なものであり、より深部の腫瘍へ本システムを適用するためには交流磁場を利用することが望ましい。現在は、研究代表者が平成31年度4月1日付けで異動した立命館大学が保有する交流磁場発生装置を用いて、深部腫瘍への適用が可能なEPR効果増強法の構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体と交流磁場を併用した際のEPR効果増強効果について評価を進める。交流磁場はネオジム磁石よりも深部へ磁場を付加できるため、EPR効果の増強を腫瘍組織全体で評価するのではなく、腫瘍を分割して評価を行い、EPR効果の増強が認められる距離に関する情報を取得する。また、本システムとドキソルビシン内封PEG修飾リポソームを併用した際の抗腫瘍効果についても評価する。これらの検討は、平成30年度に行った実験と同様の手法で進めていくため、円滑に進行すると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度は、平成30年度に行った一連の検討を交流磁場を用いて新たに進めていく。そのため、これらの実験に必要なリポソーム調製用試薬、細胞培養用試薬、および実験動物の購入費用として次年度使用額が生じた。いずれの検討も当初の研究計画通りに進めることから、平成31年度配分の研究費は当初の計画を特に変更することなく執行する。
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