本研究では、磁性リポソームと外部磁場を利用した腫瘍血管の傷害によるEnhanced Permeability and Retention (EPR)効果の増強法を確立し、微粒子抗がん剤を用いた効果的な難治性がん治療法を構築することを目的としている。平成31年度は、前年度に構築した磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体とネオジム磁石を用いたEPR効果増強法をより深部の腫瘍に適用するため、交流磁場を利用した際のEPR効果増強効果について評価を行った。ネオジム磁石表面の磁束密度は約300 mTであり、表面から5 mm離れると急激に磁束密度が低下する一方で、交流磁場を用いた場合には磁場発生面から約1.5 cmの距離まで300 mT以上の磁束密度が得られた。そこで、マウスメラノーマ細胞株B16/BL6を皮下に移植して作製した固形がんモデルマウスに対して磁性アニオン性リポソーム/アテロコラーゲン複合体を静脈内投与した5分後に30分間腫瘍組織へ交流磁場を付加した結果、その後に投与するPEG修飾リポソームの腫瘍内移行量がネオジム磁石を用いた場合と同程度に増大した。さらに、腫瘍の中心部 (10 mm四方) に蓄積したPEG修飾リポソーム量を測定した結果、ネオジム磁石と比較して、交流磁場を用いた場合に約1.3倍高い蓄積が認められた。次に、複合体の投与と腫瘍組織への交流磁場の付加を行った後、ドキソルビシン内封PEG修飾リポソームを静脈内投与した結果、ドキソルビシン内封PEG修飾リポソーム単独投与群と比較して顕著に高い抗腫瘍効果と延命効果が認められた。以上より、交流磁場を用いることで難治性がん組織のより深部までEPR効果を増強することができ、効率的に微粒子性抗がん剤を送達できることが示された。
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