前年度までの検討結果より、GLP-1受容体作動薬の1種であるExendin-4に両親媒性の細胞膜透過ペプチド (CPPs) であるpenetratinを混合することにより、経鼻投与後のExendin-4の脳移行性が飛躍的に増大することが明らかになった。さらに、Exendin-4をpenetratinおよび少量のインスリンと併用し老化促進モデルマウスに長期繰り返し経鼻投与することにより、認知機能障害を著しく改善できることを見出した。 そこで本年度は、penetratin併用経鼻投与後に脳内へと集積したExendin-4が鼻腔から直接脳に送達されたのか、あるいは、全身からBBBを経由して脳に移行したのかを解明することを目的とした。マウスを用いた検討の結果、L-penetratin併用経鼻投与によって得られるExendin-4脳移行性増大効果は、全身循環への吸収促進作用を介したものではなく、鼻腔から脳への直接送達ルートを介して達成されたものであることが示唆された。一方、鼻粘膜から血中への吸収性を増大させたとしても、脳内濃度の増加には寄与し得ないことが示唆された。 一方、認知症治療効果を発揮するためには、Exendin-4とともにインスリンの脳内濃度を同時に高めることが必要がある。インスリンは、Exendin-4およびpenetratin間の相互作用が競合的に妨げる可能性が懸念されることから、penetratin併用経鼻投与を介したExendin-4脳送達効率に及ぼすインスリン同時併用の影響をマウスを用いて評価した。その結果、インスリンはpenetratinによるExendin-4脳送達効率を変動させないことが示唆された。 これらの検討結果より、CPPs物理混合法は、鼻腔から脳へのペプチド薬物の移行効率を高め、中枢疾患治療を向上させる 有用な基盤技術となることが示唆された。
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