研究課題/領域番号 |
17K15450
|
研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
狩野 裕考 東北医科薬科大学, 薬学部, 助手 (40774279)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ガングリオシド / TLR4 / 内因性リガンド / 慢性炎症 / メタボリックシンドローム / アシル鎖構造 |
研究実績の概要 |
自然免疫受容体Toll-like receptorを介した慢性炎症は、メタボリックシンドロームの発症を決定づける強力な増悪因子である。申請者は新たに、肥満時に増加するスフィンゴ糖脂質:ガングリオシドGM3が、Toll-like receptor 4 (TLR4) の内因性リガンドとして慢性炎症を惹起すること、その生理活性がガングリオシドのアシル鎖構造(鎖長や不飽和度)の違いによって制御されることを見出している。初年度は、ガングリオシドのアシル鎖構造に依存したTLR4活性化制御の分子メカニズムを解析した。 (1) ヒトTLR4発現細胞を用いた各種実験の結果、TLR4と相互作用する脂質結合性アクセサリータンパク質(MD-2、CD14など)がガングリオシドを介したTLR4活性化制御に必要であること、また、アクセサリータンパク質の種類によってアシル鎖構造に対する選択性が異なることが明らかになった。 (2) マウスTLR4発現細胞を用いて(1)と同様の実験を行い、ガングリオシドの作用についてヒトとマウスにおける種差を比較した。その結果、アシル鎖構造に対する選択性が、アクセサリータンパク質の生物種によって異なることが分かった。また、変異体解析によって、ガングリオシドの作用発現に関わる、TLR4細胞外ドメインのアミノ酸を同定した。 以上の結果から、ガングリオシドがTLR4細胞外ドメインとアクセサリータンパク質からなる複合体に対して直接的に作用する可能性が得られた。 (3) 生細胞内における発光イメージング手法を用いて、ガングリオシドによるTLR4複合体の会合状態の変化を検出した。その結果、異なるアシル鎖構造のガングリオシドの作用によって、TLR4の会合状態が遷移している可能性が得られた。 さらに、次年度の準備として、慢性炎症を呈する各種肥満モデルマウスの作成や、マウス組織培養系の確立、ノックアウトマウスの交配を行った。また、上記の成果に基づいて学会発表を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に沿って、生化学的手法やイメージング手法を取り入れた実験を行うことで、ガングリオシドが内因性リガンドとしてTLR4を制御する際の具体的な分子メカニズムを明らかにできた。とくに、ガングリオシドのアシル鎖構造の違いによってTLR4活性化が制御される理由として、アクセサリー分子の必要性とそれらのアシル鎖構造選択性の違いが分かった。さらに発光イメージング手法にもとづく分子間相互作用解析により、TLR4会合状態の変化を捉えることができた。ただし、この手法については、コンストラクションの工夫などによって、ダイナミックレンジの改善が必要である。また、当初の計画に加えて、変異体解析や、ヒトTLR4だけではなくマウスTLR4を用いた比較解析を行い、ガングリオシドのアシル鎖構造の認識メカニズムを詳細に解析できた。 これらによって、初年度の研究計画の目標は十分に達成できたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度の研究計画に沿って、異なるアシル鎖構造のガングリオシドが産生されるメカニズムの解明を行う。マウス3T3-L1脂肪細胞を用いた解析を計画しているが、より幅広いアシル鎖構造のガングリオシド分子種を発現する細胞株や、マウス脂肪組織の生体外培養についても、新たに選択肢として考慮する。 さらに、肥満モデルマウスや各種ガングリオシド合成酵素のノックアウトマウスを用いて、異なるアシル鎖構造のガングリオシド分子種の投与によって炎症が制御されるかについても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費は初年度予定額の85%までを使用しており、その残額と旅費の残額が次年度使用額となった。これは、初年度の実験計画が予算範囲内で順調に遂行されたためと考えられる。 次年度は、細胞実験と動物実験の両方を予定しており、また、最終年度であるため研究成果の発表を積極的に行う予定であり、次年度使用額と翌年度分の助成金を合わせることで、より円滑な研究計画の遂行が期待できると考えられる。
|