本研究は、心房細動の発生源として重要視されている肺静脈心筋の電気的自発活動と、心房細動発生の危険因子となりうる伸展負荷、およびその修飾因子との関連に注目する。これまでに解明できた肺静脈心筋の細胞内Ca2+依存的な自発活動の発生機序に、伸展負荷という視点を加え、心房細動発生機序の解明と新たな治療戦略開発につなげることを目的とする。 昨年度までに、伸展負荷を伴う心肥大や高血圧、心房細動の危険因子となり得ることが報告されている神経液性因子アンギオテンシンⅡが、AT1受容体を介して、筋小胞体IP3受容体を活性化することで、筋小胞体からの局所的なCa2+放出を示すCa2+スパークの発生頻度を増大させると共に、自発的なCa2+トランジェントを発生させることが明らかとなった。 今年度は、アンギオテンシンⅡによる細胞内カルシウム動態への影響が、どのように電気的自発活動へと発展するのかを明らかにするため、ガラス微小電極法を用いて自発活動発生に重要となる活動電位の緩徐脱分極の観点から検討した。モルモット肺静脈心筋において、アンギオテンシンⅡは、緩徐脱分極相の傾きを増大させると共に、自発活動の発火頻度を増大させた。このアンギオテンシンⅡによる緩徐脱分極相への影響は、AT1受容体遮断薬ロサルタン、IP3受容体遮断薬xestospongin C、そして細胞膜上のナトリウム・カルシウム交換機構阻害薬SEA400によって抑制された。すなわち、アンギオテンシンⅡは、AT1受容体を介して筋小胞体上のIP3受容体を活性化することで、筋小胞体からCa2+を放出し、この放出されたCa2+が細胞膜上のナトリウム・カルシウム交換機構によって細胞外へと汲み出される際に発生する脱分極が緩徐脱分極相を形成し、肺静脈心筋の自発活動の亢進に繋がっていることが示唆された。
|