これまでに、我々は、colon26 細胞を投与して形成される腫瘍を外科的に切除したマウスで認められる情動障害に、プロスタグランジン(PG)D2受容体シグナルが関与することを、行動薬理学的検討により明らかにしてきた。昨年度、腫瘍を切除したマウスの海馬において、シクロオキシゲナーゼ(COX)-1の発現増加が認められたことから、腫瘍切除後のマウスの海馬機能が変化している可能性が考えられた。 今年度は、海馬におけるCRTH2シグナルが、情動障害の発現において、重要かどうかを明らかにする目的で、CRTH2アゴニストであるDK-PGD2を海馬内に投与し、その後の社会性行動を評価した。その結果、0.1-1 pmolのDK-PGD2は、vehicle投与群と比較して、用量依存的に社会性を減少させた。このことから、海馬におけるCRTH2シグナルの亢進により、情動障害が発現する可能性が示された。 また、海馬において、機能が変化した細胞種を特定する目的で、各種細胞マーカーの発現解析をウェスタンブロット法により評価した。その結果、ミクログリアのマーカーである、Iba-1の発現量が、腫瘍切除後マウスの海馬において、有意に減少することを明らかにした。一方で、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのマーカーである、NeuN、GFAP、OSP-1の海馬における発現量は、腫瘍切除後マウスと偽手術マウスで同程度であった。ミクログリアに関して、さらに詳細に解析する目的で、Iba-1の免疫染色を行い、ミクログリアの形態を観察したところ、腫瘍切除後のマウスの海馬において、ミクログリアの突起の長さが有意に減少することを明らかにした。すなわち、腫瘍切除後のマウスの海馬において、ミクログリアの機能が低下している可能性が考えられた。
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