本年度は、①音響曝露前に、Tempol(抗酸化剤)とPD150606(カルパイン阻害剤)との併用投与、L-NAME(一酸化窒素合成酵素阻害剤)とPD150606との併用投与と、PD150606単独投与との音響外傷性難聴に対する内耳保護効果の比較および②音響曝露による難聴病態形成におけるNO/cGMP/PKGシグナルの関与について解析を行った。 まず、①に関して、初年度、音響曝露による聴力悪化と有毛細胞死において、劇的な改善がみられなかった。このことから音響曝露後の炎症性サイトカインの変化について解析した。その結果、単独投与と比較していずれの併用投与でも音響曝露後に生じるTnfの増加に影響を与えなかった。また、炎症惹起に関与するNF-kBの核内移行についても検討した。その結果、音響曝露後に生じるNF-kBの核内移行は、単独投与群およびいずれの併用投与群でも影響はみられなかった。このことから、難聴病態形成に蝸牛内の炎症が関与すること、およびこの炎症反応は酸化ストレスと独立事象であり、酸化ストレスとカルパインの活性化はある一定の従属事象であることが推察された。 次に、②に関して、これまでに我々は、音響曝露後iNOSの発現が蝸牛内で増加し、これが活性酸素と反応することで細胞障害が引き起こされることを報告している。一方で、NOはcGMP/PKG経路を介して血管拡張反応などの生理反応を引き起こす。そこで音響曝露各時間経過後に蝸牛を摘出し、蝸牛内cGMPレベルを測定した。その結果、音響曝露直後から少なくとも曝露4時間まではcGMPレベルが減少した。このことから、音響曝露後に生じるNO/cGMP/PKGシグナルが減弱することが推察された。
|